だけど優美が婚約すれば妓女を引退しなければならない。この館にはたくさんの妓女がいるけど優美程優れた女性はいなかった。


本来なら、もう少しした後に縁談なり身請けなり受けるのだが……何かがおかしい。


優美は16歳で柚葉は18歳での縁談の話。


遊郭の街ではまだまだはやすぎる話しであった。



「嫌よお母様。私結婚なんてしたくないわ。妓女を辞めなくちゃいけなくなるでしょう?私、もう少しこの仕事したいのよ」



喜ぶ母親と真逆に不満げに話す優美。


優美にとって妓女は天職なのだろう。


決して好きではないが男たちからちやほやされ、時にはお小遣いも貰える。


高貴な妓女として扱われている優美は夜の営みをすることもなくかなりのお金を稼いでいた。



「まず落ち着きなさい。縁談の話があったのは優美じゃない。柚葉の方だ。お前たちもこの前、その場に居合わせただろう?」


「……え?私?」



今まで黙って聞いていた柚葉は思わず顔を上げる。



(私に縁談……?もしかしてこの前の東條様かしら。あの話は断ったはずなのだけど……)



「はぁ!?なんでお姉様なのよ!この前、東條様の縁談をお断りしたばかりなのよ!?なんで私よりもお姉様が選ばれるのよ!」



婚約したくないと話していたばかりなのに優美は声を荒らげながら立ち上がる。


桜久耶は優美のお気に入りの客の一人でもあった。それなのに柚葉が選ばれたことに腹が立ってしょうがない。


婚約したくないという気持ちと姉が先に結婚するという話は別。なんでも優美が一番でないと気が済まない彼女はギロっと柚葉を睨んだ。



「前にも話しただろう。朝雲家の館を支えるにはどちらかが政略結婚しなければならない。今のままではいつこの館が潰れてしまうのか分からない。遊郭自体警備とかが厳しくなっている」



興奮する優美を無視して父親は話を続けた。



(そんな話があったなんて始めて聞いたわ。優美のおかげでこのお店は回っていると思っていたけど)



自分に縁談の話があったことを一瞬忘れて冷静に考える柚葉。ぼんやりしていると父親とバッチリ目が合ってしまった。



「こんな異能も持たない、なんも役に立たない娘が家の役に立とうとしてるんだ。今回ばかりは目を瞑ろうじゃないか」



目が合ったけどすぐにそらされ、冷たく言い放たれた言葉を柚葉は黙って聞いていた。