「お前は俺の花嫁だ。どんなことがあっても愛することを誓おう。私はお前なしでは生きられない」



桜久耶は柚葉の手を取りながら愛の言葉を囁いた。その冷たい印象からは思いもよらぬ程の甘い声と言葉たち。


柚葉の心はその言葉を聞いて一瞬にして暖かくなったのを感じた。


それと同時にーー心が一瞬で冷たくなる。


それは優美と母親の視線。2人に逆らえない柚葉はどうしようかと考えた。


心の中では桜久耶の手を取りここを逃げ出したいと思っていた。でも、それはできない。



(私がこの家から出て行ったら……誰かが犠牲になってしまう)



「ーー申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」



震えた声で柚葉はこの話を断ってしまった。柚葉は幸せになったらいけない人間。そう思い込んでいた柚葉は、真っ直ぐと桜久耶を見つめながら容赦なく断った。



「なんで……。柚葉、私のことが信じられないか?ちゃんと柚葉を守ると誓う。……それでも、ダメか?」



真っ直ぐ見つめる桜久耶の瞳が揺れた。


まさか断られるとは思っていなかったのだろう。明らかに動揺していた声と態度。


柚葉は痛む心に気づかない振りをして頷いた。



「申し訳ございません。私はまだ貴方のことを信じられません。それに、ここにいることに困ってませんので。後日またお断りの挨拶に伺ってもよろしいですか?」



柚葉はそっと姿勢をただしながら真面目に話を進める。その間もずっと2人の視線を感じていた。



(私はこの家から逃げてはダメ。優美よりも先に幸せになってはダメ)



呪文のように心の中で唱える柚葉。



「……そうか。ならまたここに来る。私はお前を手に入れるまで通いつめるぞ。お前の恋心が私は欲しいからな」



柚葉の思いが届いたのか桜久耶は諦めたようにため息を着いた。柚葉を抱き起こしながら愛おしそうに見つめる桜久耶。



「そういう事ですので。本人も婚約する気がないと言ってます。本日のところはお引き取り願います」



柚葉が婚約を断ったことに安心したのか早口でまくし立てる母親。


優美は桜久耶を落とせなくて不機嫌になっているのか作り笑いを顔面に貼り付け、一緒になって出て行こうとする。



「……柚葉も来なさい。お客様をお見送りするわよ」


「かしこまりました」



母親は無理やり柚葉を引っ張り、お見送りに同席させる。