突然の出来事に戸惑う柚葉。桜久耶は真っ直ぐ柚葉を見つめ、手を取った。


柚葉は黙って桜久耶を見つめる。すると部屋の中にほんのりと甘い香りが漂いはじめる。


そのことに柚葉は気づいてしまった。




「東條様~!そんなお姉様ほっといて私と遊びませんか?私ならお姉様よりも楽しい時間を贈ることができますよ?」



気づいたら優美が桜久耶の隣にいた。


甘ったるい香りに甘ったるい優美の声。これは、優美が仕事をしている時に使っている異能と妓女の技。


『誘惑』という異能を使いだした優美。


この甘い香りはその異能を使っている証拠。この匂いは異性と同じ家系に生まれた人にしか分からない。


だから周りの妓女はなにも感じていない。


……ただ、柚葉は異能は使えなくても感じることはできていた。



「……その甘ったるい香りを出すのはやめてくれ。私はお前に一切興味ない。私が愛してやまないのは柚葉だからな。前に話をしに来た時言っただろう。縁談の話はお前じゃなくて柚葉だと」


「え?……縁談?」



優美のこの甘い香りを嗅いだら異性の誰もが優美の言いなりになるほど強い力。なのに桜久耶には全くそれが効いていなかった。


それどころか優美を振り払い、ドスの効いた声で睨みつける。



「きゃ!……何するのですか!」


「それはこっちの台詞だ!私の大事な婚約者をこんなに痛めつけて。お前には人の心がないのか!柚葉はここにはおけん。今すぐ私の住む屋敷に連れていく!」


「東條様!?そ、それだけはおやめ下さい!柚葉は妓女として働いてないのです!花嫁にするなら優美をと……」



倒れた優美を起こしながら母親が慌てて話し始めた。どうやらこの家に縁談話が舞い込んできたらしい。


しかも、それが優美ではなく柚葉だということにショックを隠しきれないのだろう。



「あ、あの……あの……」


「柚葉!私たちの言いたいことはわかるわね!?この縁談話は断りなさい!」


「そうよ!私よりも先に幸せになるなんて認めないわ!」



2人から理不尽なことをまくし立てられ、柚葉は黙り込むことしか出来なかった。



「少しは黙りなさい!あなたがたが何と言おうと柚葉は私の大事な婚約者です。これは東條家でも決まったこと。柚葉。私と一緒に来てくれないか?」



修羅場と化したこの部屋は緊張の糸が張り詰めていた。いつの間にかほかの妓女はいなくなっていて優美と柚葉、母親、桜久耶の4人が取り残された。