柚葉は昔から優美の不気味な笑顔が大嫌いだった。その歪んだ笑顔に自分の心も見透かされているような気がして。


小さい頃から優美から……母親から家族から逃げることが出来なかった。



「お姉様のせいで私が恥をかいたわ。みんなはこんな出来損ないみたいな失敗をしないように。こうなりたくないでしょう?」



柚葉に話していた優美が突然顔を上げ周りを見渡す。


たか笑しながら竹刀を振り下ろす優美はまるで悪魔のようだった。力任せに何度も何度も柚葉の身体に竹刀を落とす。


ーバシン!ガッ、ドスッ!


鈍い音が部屋の中に響く。


部屋の中にいた柚葉以外の妓女たちはもう誰も笑っていなかった。目の前の仕打ちに怯え、目を疑う。



「いっ……。申し訳、ありません……。いたいっ!」


「お黙りなさい!お姉様は一生この館と私のために働いてもらうのよ!お姉様が何かを言う権利なんてないわ!」



思わず痛いと叫んだ柚葉。


それを優美は許さなかった。さらに優美を興奮させ、柚葉の身体はみるみるうちに痣だらけになり赤く腫れ上がっていた。



「いくらなんでも……」


「やり過ぎよ……」



あまりの迫力にたまらなくなった一部の妓女がボソリと呟いてしまった。優美には言ってはいけないその一言を。



「……なんか言った?」



案の定、その言葉は優美の耳に届いていてはっきりと聞こえていた。


優美はギロっと声のした方を向き、鬼のような表情で妓女を睨む。



「な、なんでもございません!」



その妓女たちは優美に逆らえないとわかっていた為すぐに首を横に振り頭を下げる。



「そう?……あら。もうこんな時間なのね。今日も高貴なお客様をもてなすから、みんなしっかり仕事をするように。……とりあえず今日はこのくらいでいいかしら」



優美は窓の外を見ると竹刀を手から離し、柚葉に興味無くす。気づいたら外は真っ暗で遊郭の仕事が始まる時間だ。


柚葉はその場でぐったりしているが誰も助けの手を伸ばそうとしない。


……いや、優美がいる手前伸ばすことができないのだ。優美はふんっと鼻で笑うと部屋を出て行こうとする。


取り残された妓女たちも後に続こうと立ち上がった。


ーーその時。



「お待ちください!旦那に許可を取ってから入ってくださいと仰ったじゃないですか!」



何やら廊下が騒がしい。


母親の声が遠くで聞こえるが柚葉は起き上がることが出来なかった。