花魁道中から一夜明けた翌日。


あさぐも館の妓女たちはひとつの部屋に集まっていた。その中心にいたのは優美ではなく柚葉。


華やかな妓女に囲まれた柚葉は見るも痛々しい姿となっていた。



「いいかい?お前に私はあれほど優美の仕事を邪魔するなと言ったはずだ。どうしてそれを守れなかった?おかげでこの館自体に恥がかかったじゃないか!」



ーバシンッ!


中心にいるのは柚葉ともう1人。母親が竹刀を持ちながら教育という名の説教をしていた。


遊郭の中では失敗や粗相を犯した妓女、館を抜け出そうとした妓女が罰を受けることがある。


柚葉は昨日の出来事について、見せしめのように妓女の前で罰を受けていた。今後このような失敗がないようにという母親の教育らしい。


もう既に柚葉の体にはいくつもの大きな痣があり、疲れきってぐったりしていた。



「申し訳ございません……申し訳ごさいません……」


「うるさい!謝って済むならこんなことしてないよ!だいたい1人の妓女だという自覚はあるのかい?そんなみすぼらしい着物着て接客して……」



謝ることしか出来ない柚葉に永遠と同じような説教の言葉を吐き出していた。


どうすることも出来ない柚葉はその場でじっと座り込み、嵐が過ぎ去るのをただ待つことしか出来ない。


何も感じない、痛みを感じることもとうに忘れ去った。


ただ身体に痣ができていくのを見ているだけ。



(……もう、殺して欲しいくらいだわ)



生きる意味などない柚葉は。いつしか“殺して欲しい”とまで思うようになった。


ほかの妓女は柚葉を見ながらヒソヒソと話している。時には楽しそうに笑いながら。



「お母様。私にもやらせてくださいな。一番の被害者は私なのよ」



グチグチと説教する母親の横からふと優美が顔を出し、竹刀を奪おうとする。



「そうね。私はもう気が済んだから、あとは優美の好きにしてちょうだい。この後も仕事があるから程々にね」


「わかってるわ。……さぁ、お姉様。今度は私と楽しい時間を過ごしましょうか」



母親はあっさりと竹刀を手放すと優美に全てを託した。その瞬間、この部屋の空気が一気に凍りついていく。


美人が怒ると怖いというけど、優美はその言葉のお手本だった。自分の大事な儀式の時に失敗されたと思っているのだから。


自分で仕向けたのに被害者ぶるのは得意な彼女。