それも柚葉に聞こえるような大きな声で。
柚葉は何とか体を起こし、前を向いた。だけど人々の視線が全て柚葉に向いていて、それが悪いに満ちたものだと気づいてしまった。
(……ああ、これが……優美の望んだ未来なのかな。私は……本当に無様で醜いわね。でもこれで、優美が人気者になるのなら私はいい仕事をしたのかしら)
頬を引き攣らせながらも前を向いた柚葉。
どんな言葉ももう彼女の胸の奥には届かなかった。既に何回、何十回、いや……何百回も聞いた言葉が聞こえているが。
柚葉はもう……何も感じなかった。
「何を止まっているの?さっさと再開するわよ」
柚葉が立ち上がったのを見計らった優美はそっと耳打ちした。
自分の望んだ仕事をした柚葉に満足したのかニヤニヤが止まらない優美。
「はい。申し訳ございません」
謝ることしかできない柚葉は。
ぼんやりと遠くを見つめていた。
この後館に戻ったらどうなるのだろうか。そう思いながら、柚葉はまた歩き出したのだった。
ーーその様子を、遠くから眺めていた一人の男がいた。その男は金色の髪を揺らしながら、恋するような瞳で柚葉を見つめる。
それと同時に怒りが、沸いた。
(私の大切な人を良くも……。早く、助け出してやるからな)
「柚葉。やっと見つけた、運命の人」
そう呟いて男は暗闇に消えていく。
その存在に優美に夢中になっていた人々は。誰も、気づくことはしなかった。



