柚葉は必死になって歩いた。


体の痛みに耐え、くちびるを噛む力を強くして。


……だけど、優美は柚葉のその様子を見逃さなかった。



「……お姉様、仕事してもらうわよ」


「え……?」



順調に進んだ花魁道中。かすかな声で優美はぼそっと呟いた。柚葉はそのことに気づいて顔をあげる。


ーーその瞬間。



「きゃあ!」



優美はわざとらしく足を柚葉の前に出し、転ぶように仕掛けたのだ。柚葉は避け切ることが出来ず見事に転ぶ。



「なんだなんだ?後ろの女が転んだぞ!」



優美を見ていた周りの人々がザワザワと騒ぎ出した。柚葉が転んだせいでさらに人が増え、街の大きな道が人で埋め尽くされていく。



「ふっ、いい気味」



上手く立てない柚葉に不敵な笑みを見せる優美。花魁道中の中でも一番やってはいけないことを柚葉はやってしまった。


見せしめのように優美よりも前に出て派手に転んだ柚葉。当然その様子は両親も見ていて怒り心頭になっていた。



「あの子はまたやらかして……!あれほど仕事の邪魔をするなと言ったのに!」



母親は今にも柚葉に飛びかかりそうな勢いでわなわなと震えている。


だがしかし、このような人だかりの中で、柚葉を殴ったりしたら『あさぐも館』の品が落ちかねない。


父親はそっと母親の肩に手を置き、やめとけと耳打ちした。



「あいつにはちょうどいい罰になる。今ここで手をあげなくても勝手に惨めになるさ。制裁は後で喰らわそう」



ニヤリ、と不敵に笑う父親は。


優美よりも数倍恐ろしかった。


柚葉のせいで止まってしまった行進。だけど誰一人として柚葉を助けようと手を差し伸べる者はいなかった。



(どうしよう。どうしよう。優美の足に引っかかって転んでしまった。私、とんでもないことを……)



柚葉にとっても一番恐れていた出来事が今、起こってしまった。冷や汗が止まらなくて顔は青ざめていく。


優美は着物の袖で顔を隠しながらくすくすと笑っていた。



「おい、あの子優美ちゃんの姉じゃないか?」


「ほんとだな。いつもみすぼらしいと思っていたけどここまで鈍臭いとは。この失敗でどんな罰が下るのやら」


「むち打ちだけで済めばいいほうだよな~」



周りの人は言いたい放題。柚葉にとっていい噂はこの遊郭の街では流れないのもあってか全てマイナスな言葉ばかりが飛んでくる。