どうしたらいいか分からない。


自分は何をしたらいいのか分からない。


気づいたら、柚葉は泣いていた。泣くことさえ忘れていた柚葉だったのに。涙が止まることを知らなくて。


柚葉の心は知らぬ間に限界を突破していたのだった。



「遅い!今何時だと思ってるの!」


「申し訳ございません。申し訳ございません……」



何とか涙が止まった頃。柚葉は急いで自分の仕事を終わらすと花魁道中のための衣装に身を包み、みんなが待っている場所へと向かう。


時間には間に合ったはずだがまっさきに母親の怒りの声が飛んできた。周りの妓女達もヒソヒソと話しながら柚葉を見ている。


いつもの事だが今日は一段と冷たい視線を浴びているなと柚葉は感じた。



「……はぁ。全員揃ったわね。それじゃあ出発するわよ」



館長である柚葉と優美の両親が妓女を引連れて始まりの場所まで誘導する。


そのため、街を練り歩く少し前の時間にみんな揃っていた。柚葉は優美の少し後ろに立つと乱さぬように皆に合わせてゆっくり歩く。


まだ体のあちこちが痛むがそんなことは言ってられない。


もし、ここてま転んだり優美に何かしてしまったら……次こそ殺されてしまうかもしれない。


普通はそこまで罰がないのだが柚葉は例外。柚葉にとって、死と隣り合わせの花魁道中が今始まろうとしていた。



「……おい、あの花魁すげぇべっぴんさんやなぁ」


「お前知らないのか?あの花魁はあさぐも館の優美ちゃんだぞ。やっぱりこの街一番の美人は彼女だな」



日が完全に沈み込み、星が瞬く頃。


太陽に反するように街の灯りが煌々と輝いていた。そんな中、今日はひとつの館で大事な行事が執り行われていた。


街の中心に集まるのは遊郭にいたたくさんの人々。


みんなが今か今かと街一番の美少女を待っていた。


ーーカラン……カラン……。


下駄の音が街に響く。重たい下駄からは想像もつかない程の綺麗な音。そんな音を鳴らせるのは花魁の中でも優美だけだ。


一瞬にして静まり返る街中で、みんなの視線は明らか優美にだけ注がれていた。



(絶対に失敗できない。何があっても転ばない……)



柚葉はたくさんの視線が優美に注がれるのを祈りながら歩いた。いつもは多少自分にも見られる感覚は出てくる。


こんな可愛くもない美人でもない柚葉が優美の後ろにいたら誰だって気になる。