「とうちゃく!」
「分かったから降ろせ! 降ろしてくれ! これ何の罰ゲームだよ?!」
「え〜……どうしよっかなぁ」

 やめてください恥ずかしいです降ろしてください。
 至近距離だからかさっきのあの爽やかな匂いがまた鼻腔の奥をついてきた。
 にやりといたずらっぽい笑みを浮かべる竜輝。俺の知っていた竜輝は子供でうるさくて可愛いやつだったのに、いつの間にこんな……色気ってやつを覚えてきたんだろ?

「れんくん?」

 竜輝と目があった。たれ目の眼光に少しだけ色気と雄らしさが入り交ざっているように見えて、まるで吸い込まれるようになる。

「あっれんくん! バス来たよ!」

 彼の弾むような声のおかげで、バスが来てドアが開いたのに気がついた。ここでようやく竜輝から降ろしてもらって、バスの定期券を専用のリーダーにかざして席に座る。
 竜輝も定期券を作ってもらったみたいで、俺の後からピッとリーダーにかざしていた。

「はあ……」
「れんくん確か西洋寺前だっけ? 降りるの」
「そうだよ」
「りょうかい! ちゃんと覚えとかなくちゃね~」

 はあ、疲れた。
 コイツが俺とは別の中学に進学してからは、コイツの事なんて思い出したくなかったのに。どうして俺は朝から竜輝に振り回されてるんだろうか? 早起きしなかったから?
 にしてもホント成長したな……と竜輝の男らしさと少年らしさの入り混じった横顔を見ながら呟く。