キスはした。けど俺だって今の竜輝の性癖とかそういうのは知らない。中学は一緒じゃなかったせいか、男も女もいけるのか、はたまた男だけなのかなんてわからない。
 それに好きな人がいるって……結局誰なんだろう。もし仮に俺だとしてもそう思うのはうぬぼれなんじゃないかって思えてしまう。

 女子に言われた言葉が大きな剣になって胸に突き刺さっていたまま抜けない。そのまま昼を迎えた俺はいつものように忍と昼食を食べに食堂へと足を運んでいる最中、ある様子を目撃する。

「……竜輝また告られてんな」

 生徒達がそこそこ賑わいを見せている廊下で、1年と思わしき華奢な女子が竜輝に告白しているのにすれ違った。女子の髪型はボブヘアだけど、虫の触覚みてえな鬢が強調されているように見える。

「見てみるか、蓮也。見たくなければそのまま行くけど」
「いや、見る」

 幸い竜輝はこちらに全く気が付いていない。全意識が女子に向けられている状態のようだ。

「田中君。私と付き合ってほしいです……! 実は中学の時から、ずっと好きでした……!」

 え、この女子竜輝と同じ中学だって? という事はもしかしたら竜輝をおっかけて同じ高校を受験したのか……?