「あ」

 昨日食べたみかんの皮が、プリントと参考書まみれな机の上に転がっていた。あのままおきっぱなしだったのを思い出した俺はみかんの皮を掴み、リビングにあるごみ箱へと持っていく事にする。だって部屋を汚くしていたら母親に怒られるだろうから。

「……みかん、か」

 ファーストキスはみかんの味と言っていた竜輝の顔が脳内によぎる。それと同時にあいつの唇はみかんだなと思った俺も顔をのぞかせた。
 一瞬顔からぐわっと火が吹きそうになったけど、何か感情の塊みたいなものがすとんとお腹の中に落ちる。

「俺はやっぱり、竜輝の事が好きなんだ」

 キスしたいって思った事とか、心当たり多すぎて今の熱がある俺にはうまくまとめきれないけどそれだ。ああ、腑に落ちるってこういう感じなのねなるほどね。
 忍にもクソでか感情とか言われたけど、やっぱりそう。あの時、竜輝へ感じた虚無感とか、時折見せる大人の色気めいた姿も全部ひっくるめてアイツに恋をしてるんだ。

「そうだよな、そうだよな、俺……」

 男が好きだって自覚したのに、あまりにもすとんとし過ぎて恥ずかしい感情が逆に湧いてこない。普通、男が男を好きになるって人によればおかしい事なのに。

 しかもなんでみかんの皮を捨てに行く時に正解を見つけたんだ? 変なタイミングだなぁと苦笑しながら俺は朝食の準備をしている母親を尻目にみかんの皮を三角コーナーへと捨てる。