すっと竜輝の匂いが濃くなったかと思ったすぐあと、肌よりも柔らかい感触が俺の唇にのっかってきた。温かくて、じんわりとしたぬくもりが唇から全身へと伝っていく。

 例えるならみかんの身が一番近いかも。表面はプニッとしていて、奥の方は芯がある、みたいな。
 ほんと竜輝の唇、みかんみたい。

「ん……」

 このまま時間が止まってしまえばいいのに。と俺の本能が胸の中で訴えた。それにこの優しさと温度は、幼少期に母親や家族からハグされたり抱っこされていた時に感じたものとはまた全然違う。だからこそもっと堪能したい気持ちになる自分がいた。

「……っ」

 体感にして十数秒後、そっと重なり合っていた肌と熱がゆっくりと名残惜しそうに離れていった。

「……はあ」

 高校生から放たれたものとは思えない、色を帯びた竜輝のため息を聞いて、俺は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。さっき竜輝の唇が重ねられていた自身の唇を舌で舐め取ってみると、少しだけみかんの味がする。

「……みかんの味だ」
「ほんとだね。ファーストキスはみかんの味かぁ」

 うんうんと何か余韻に浸っているかのような満足そうな顔を浮かべている竜輝に、お前はそれでよかったの? と無意識のうちに聞いてしまう。

「いいからキスしたんだよ」

 竜輝からの真っすぐな返答には、嘘偽りはないように感じた。