「昨日寝られなかったからか?」

 とはいえ漏らす訳には行かないのでトイレは行きたい。重たい身体を引きずるようにして足を動かし、用を足すとリビングでパジャマ姿の母親と遭遇した。

「あら蓮也おはよう。なんか顔赤くない?」
「え、そう?」
「熱でもあるんじゃないの? 体温計で熱測ったら?」

 母親に促されて体温を測った所、なんと38.5度。頭痛の倦怠感の正体はこれだったか。

「熱あるじゃない、病院いく?」
「いや、いい」
「でも風邪だったらめんどうだし……一応行くわよ。学校とりゅうくんの家には連絡してあげるから休んでなさい」

 竜輝のとこまで律儀に連絡入れなくても……とは思ったけど、竜輝がここに来て確認する手間は省けるか。
 俺はひとまず母親の好意に甘えて、部屋で休む事にする。

「はあ……しんど……しんどすぎる……」

 知恵熱ってやつだろうか、これは。熱と頭が痛むせいか脳内で竜輝を思い出そうとすると砂嵐のようなノイズが走る。
 知恵熱なら病院行っても意味ないよな。

「でもおかんに全部言えねぇしなぁ……」

 熱さに浮かされている俺の視界は徐々に真っ黒に染まっていく。