玄関から飛び出すと、がばっと派手に抱き着く竜輝。例えるなら飼い主に抱き着く大型犬みたい。
 まとわりつかれたせいで、やめてくれうっとおしいなんて思っていると、香水か何かの爽やかな匂いが竜輝の首筋からするのを感じ取った。匂いは敏感な鼻の奥を刺激し、鼓動を速めていく。
 
 今までこんな匂いした事も、心臓がどきどきするような事もなかったのに。なんだこれ。俺、おかしくなったのか?

 竜輝は俺の異変に気付く素振りも無く、ただ俺の首筋付近に頬を摺り寄せているだけ。くっそ、こいつ子供みたいな所は変わってねえな……! って俺なんでこいつに動揺してんだ?! 落ち着け俺!
 
 正気に戻った俺は抱き着く竜輝を朝からうっとおしいぞ……! と言いながら引きはがす。引きはがされた竜輝はちぇっと小さく不満を漏らすも、すぐに笑顔に戻った。

「というわけで今日からよろしくねぇりゅうくん!」
「はい! れんくんのお母さん!」

 俺はめんどくせえなあ……と答えつつも、母親からそんな態度取らないの! と注意され頭を掻きながら食卓へと向かったのだった。

「れんくんまだ朝ご飯食べてないの? おれも一緒にいる!」
「いや、いいから……外でまっとけって」

 朝飯をこいつと食うとかマジできつい。俺が待っとけって言ったのも聞かず、竜輝はずけずけと家の中に入ってくるやいなや俺の左隣の椅子に座って、俺が朝飯を食べているのをじっと眺めている。
 そのせいか、食欲がぜんぜんわかなくて珍しく朝飯を残してしまった。