「はあ……」

 竜輝は完全に寝息を立てて眠っている。そんなに練習がきつかったのか、それともある程度空腹が満たされたゆえに眠気が襲い掛かってきているのかまではわからないが、音を立てて走るバスの中であるにもかかわらずぐっすり状態だ。

「完全に無防備じゃねえか」

 このなんつぅか犬系の肉食獣が無防備な姿をさらしている感よ。ひょっとしたら俺にだけ見せてくれる姿なのだろうか? いや、うぬぼれるのはよしておこう。だけどそれでも……。

「なんか嬉しいな」
 
 って思ってしまう。やっぱりこいつから頼られるのも悪くないかもしれないな……いや、コイツとは関わりたくないのに何を考えてるんだ自分。

「……どうせ、また俺の元からいなくなるんだろ?」

 きっとそうだ。もう高校生だし、コイツにも好きな女が出来るとかありうる。そうだそうだ。もしそうなら俺の事なんてどうでもよくなるに違いない。

「……やべ、次じゃねえか」

 停車駅が表示されている電子パネルを見ると、もうそろそろ降りる準備をしねえと! と急ぎの感情に囚われる。

「おい! 起きろ! 次だぞ!」
「へえ~……」