榊との出会いは、中1の時。
同じマンションの上の階に引っ越してきて、偶然会ったら会釈するほどの仲だった。
ちゃんと話したのは、中3の時。


学校の玄関を出て、グラウンドの近くを下校している時。気配を感じて横を見た。目の前に迫ってくるサッカー部が打った強烈なボールを、俺は避けれなかった。
ボールは俺の顔に直撃し、ボールの勢いに負けてそのまま後ろに倒れる。突然の出来事に頭が追いつかず、地べたに座ったまま30秒。後ろから走る音が聞こえてきた。
「大丈夫か?!?!」
焦った顔でしゃがみ込んで俺と目を合わせてくる見覚えのある顔。バスケの練習着を着ていて、汗をかいていた。ボールを当てたのはサッカー部なのに、誰よりも早く俺を心配して走ってきた人。爽やかな印象のイケメンに、俺は何一つ理解できてない頭で咄嗟に喋った。
「…ぁ、さかき…」
「無理に喋んな、鼻から血出てる、!」
榊は持っていた自分のタオルで俺の鼻を慎重に優しく拭いた。
「…いやいや…、部活、途中じゃねぇの?俺血、出てるし…汚いよ」
血の味がする。
「それどころじゃないだろ!いいから喋んな、!保健室行くぞ」
そう言うと榊はなんの躊躇いもなく俺を持ち上げた。軽々と俺をおんぶし、ちゃんと俺を体に密着させ保健室に走っていく。中学生にもなっておんぶされてる状況に、俺は即答した。
「待て…いいから…、おろして…」
恥ずかしさで弱々しく抵抗する。俺の場違いな言葉と行動に、俺を持ち走りながら思わずふっと笑う榊。斜め後ろから見ても真正面から向けられているようなキラキラの爽やかな笑顔に、自分の胸が音をたてた事に、俺は気づかなかった。

「照れてんの…?笑」
からかうような視線を向けてくる榊。俺は否定するも、すぐに赤くなった耳を指摘され、恥ずかしさに何も言えなくなった。


「骨は折れてないな…よかった」
「うん…ありがと。まじで助かった…けど部活は、?」
「あー…、外からやばそうな音聞こえたから見てみたら衝撃映像すぎて走ってきた。人助けだし大丈夫っしょ」
保健室についてから榊に応急処置をしてもらって、2人でベットにすわり会話をする。ちゃんと会話をしたのは、多分これが初めて。余裕そうに笑う榊に、今まで会釈だけの交流だったことがもったいなく感じた。
「榊…だよな?俺の上の階の」
「あ、うん、そう。覚えててくれたんだ」
「流石にね。近所でもあるし、めっちゃモテるやつだし」
「え、なにそれ、俺そんなモテないよ??」
「知らないの?」
ここだけ切り取ったらただの部活をサボってるやつだ。
「モテるっていっても、、みんな顔だけしか見てないよ。顔だけ顔だけ。てか俺…好きなやついるし」
驚いた。好きなやついるんだ。いないと思ってた。
「へぇ、好きなやついんの?」
「驚いた顔してる笑」
「恋愛とかしてなさそうなイメージだったから」
「いるんですよ」
「誰?」
「秘密」
「なんでよ」
「恥ずいし」
「照れてんの?」
「それはお前じゃん、おんぶした時」
「、うるせー」
会話のテンポの良さに2人で小さく笑う。これが俺と榊の出会い。
これをきっかけに、どんどん仲良くなっていった俺と榊。高校2年生になった今も、いつも一緒なのが当たり前。
これが俺と榊の出会い。

そして今は…修学旅行中で、ホテルにいる。


「恋バナしようぜぇ!!」
ホテルのドアを開けた瞬間からすでに恋バナにワクワクしているこいつが前田。面白い性格の帰宅部。
「ベット広いな〜」
こいつが桜田。育ちがいい清楚系男子。
「眠みぃぃよぉぉ…寝たい…」
こいつが榊。お風呂上がりも相変わらずイケメンで、女子がきゃーきゃー言っていた。



「で俺はひなちゃんが好きになった」
「いいやん」
「告れ」
「で彼女はいないと」
今は絶賛、櫻田の恋バナ中。話せば意外と盛り上がるもので、好きな人のことを秘密にする口の堅さはみんなどんどん柔らかくなっていった。
「てかこの中に彼女いるやつ榊と樹くらいじゃね?」
前田の言葉に俺と榊はシンクロする。
「「俺彼女いないよ?」」
「「「…え??」」」
榊以外はみんな目を丸くしている。学校の人はみんな榊はモテるから彼女いるって思ってたけど、ただのイメージだったのか。1番驚いているのは榊だけど。
榊が嫌そうな顔で言う。
「え?なに?なに、?俺彼女いることになってんの??」
「いやそういうわけじゃないけど」
「お前に彼女が出来なくて俺達に彼女できるわけがない…」
「お前モテるのになんで??告られないの?」
「いや…いろんな人から告白されるけど、俺は恋愛する気ないって言って断ってる。てか俺…」
 修学旅行で調子が上がって口の歯車が壊れたのだろう。俺達が1秒後に聞く、誰にも言ってなかったであろう秘密。
「3年間ずっと好きなやついるし」

まさかのカミングアウトに前田と櫻田は一気に詰め寄り出した。
「誰誰誰誰誰誰」
「3年間ってまじで言ってんの??モテモテな榊さんが3年間も片思いするほど可愛い女子誰?まじで誰?1年生?2年生?」
畳み掛けるように詰め寄る2人。榊はいろんな意味で(あぁ…終わった)という顔をしている。
「い、いわねぇよ??ヒントもあげないからな??」
問答無用で圧をかけまくる2人。
「いや言えよ。今なら勢いでいけるって」
「好きになったきっかけは?てかお前3年は流石に一途すぎ」
「……………」
2人に圧倒される榊。実際俺も気になるし、都合がいいので止めない。
「樹はなんかしらねぇの?」
前田に聞かれる。
「あー、、中3の時に好きな人いるって言ってた。それくらいしか知らん」
「ちょ、樹ぃ…」
少し焦った顔の榊。落胆した顔の前田。でもすぐに開き直って榊に詰め寄る。
榊は観念したようにしぶしぶ言う。
「…ヒント一つだけなら」
榊の言葉にまたもや畳み掛けるように言う2人。
「それでもいい」
「早く言え」
しばらく沈黙が続いた後、榊は枕に顔の半分を埋め、ぇ〜…と唸る。耳が赤くなっているのを、俺は見てしまった。
榊は好きな人のことになるとすぐ照れるのか。いつもは爽やかでこんな印象は誰も持ってないはず。こんな姿をみたら女子ならメロメロだろうな。
「………弓道部……………」
一気に盛り上がる2人。漫才みたいで思わず笑いが溢れる。
「弓道部っていっぱいいるってぇ〜〜!!!1組の莉乃ちゃん??6組の真由美ちゃん??」
「これ以上は言わないから」
「「えぇ〜〜〜〜!!!!」」
俺は追求しようとする2人を止めてあげた。こんなモテモテイケメンの好きな人を暴ける機会で、イケメン側の味方につくなんて我ながら優しいと思う。

榊のことでよほど盛り上がったから余計疲れたのか、前田と櫻田はすぐに寝た。榊は一息つき、俺は調子に乗っているのを自覚しながら、好奇心で榊が嫌がらない程度まで追求することにした。榊に小声で話しかけてみる。
「なぁ、榊の好きな人って弓道部なんでしょ?何組?」
「え…お前も聞くのかよ…」
また耳が赤くなる榊。なんか…可愛いわ。すぐ耳に出て分かりやすい。
レアな榊の照れ顔に、にやけそうになりながらも、榊の返事を待つ。
「……他の人に言うなよ…。2組から4組…の間にいる…」
「へ〜笑 2組から4組の弓道部と言えば…」
すぐに考えてみたが、思い浮かんでくる人はいなかった。
考えれば出てくると思ったけど、頭を回しても2組から4組の人が思い浮かんでこない…。
どれだけ考えても誰も思い浮かんでこない……。
ようやく気づいた。2組から4組の間に女子の剣道部はいないことに。
「………あ、1年生?3年生?」
「…2年生…。、はい、ここまでしか言わないからな」
俺はますます頭が混乱する。
「あぁ、他の学校?」
「え??違うけど」
「……え??2組から4組の2年の女子剣道部…いないよ??」
きょとんとした俺と固まる榊に、謎の沈黙が流れる。
「………………やっば」
冷静に詰んだ顔をする榊。

全く先が見えない会話に、俺は頭をフル回転させる。
「…あ!…男ってこと?」
恐る恐る聞いてみる。榊は何回も瞬きをして、少し焦った顔をしている。これは……図星だな。
「…引いた…?」
俺は衝撃を受けつつも、自分の恋愛対象がバレた榊の立場になって考え、榊に言う。
「大丈夫大丈夫。俺は別に広めたりもしないし引きもしないから。それくらい別に普通だろ」
弱々しく喋る榊を安心させるように俺は小声で説得する。
「恋愛に性別は関係ないって。榊は榊だよ」
そういうと榊は小さく息をつき、微笑む。
「樹ならそう言うと思った。」
(そう言うと思ってたんだ)
俺って結構信頼されたんだなと思いつつ、慎重に尋ねる。
「でも…まさか榊がゲイだったとは……だから彼女作んないの?」
「まぁ…それも…ある」
「それも?あぁ…!好きな人いるんだったな」
「あー…俺もう寝るわ、おやすみ!!」
なにか危険を感じたように、急に会話を途切れさせ、強引に静まり返らせる榊。俺はどうした??と思いつつも、従順に受け入れた。
「う、うん。おやすみ」
その後すぐに、櫻田が寝返りをうった。

次の日、俺が目覚めると、榊達はまだ寝ていた。昨日のことを思い出し、そーっと立ち上がりゆっくり榊のベットに座り、榊のイケメンな寝顔を眺める。
(寝顔もイケメンだな…てか昨日の榊、結構重大なことバレたのに案外ケロッとしてたな)
(ん?てか好きなやつ男ってことは……ん??高橋か鈴木しかいなくね?)
2年の2組から4組の弓道部は、高橋か鈴木だけ。俺は大事なことを忘れている。
俺は無意識のうちに口角が上がる。こんなモテモテイケメンの好きな人を、二択に絞れたんだから当然だ。
「ん…」
「あ、起きた?おはよ」
榊がぼんやりと目を開ける。
「……微笑んでる樹で朝を迎えた…」
榊ぼんやりと俺を見る。
「誰かさんの好きな人を二択に絞れたからニヤニヤしてただけ」
「…………まじか」
参ったように裏声混じりで言う榊。
「ここまで絞ったからもう聞くけど、どっちなん?」
「何が」
「"た"か、"さ"のどっちかだろ?どっち?」
前田か櫻田が起きているかもしれないから、高橋か鈴木どっち?を榊にだけ分かるように言う。
俺はわくわくしながら榊の言葉を待つと、榊はゆっくり起き上がり、意を決したように真剣な顔で言った。
「"た"…の方です」
俺にしっかり向き合ってそう答える。
「そっちかぁ…!いいじゃんいいじゃん!」
俺は純粋に榊を応援したい。榊はなぜか少し顔を顰めて、俺に腑抜けた声を落とす。
「…え?」
「ん?何?」
「…えっと…じゃあ俺は…アタックしてもいい…?」
なぜか慎重に聞いてくる榊。俺は何が違和感を感じながらも、榊を応援する。
「うん!そうした方がいいと思う!」
「言ったね?信じるよ?」
「うん!」
なんかやっぱ違和感…??まぁ、いいか。榊はアタックすることに決めたらしい。俺はその恋を純粋に応援する。

俺はまだ初恋すらしたことがない。だからなのだろうな。俺はまた、自分の胸が音をたてたことに気づかなかった。

朝食の時間が近づいてきたから、前田と櫻田を無理やり起こして4人で部屋を出る。
「えーおいしそー!」
「お腹すいたな〜」
4人でグループになって椅子に座り、学年代表の挨拶を聞く。
「修学旅行ではこれが最後の朝食です。おいしくいただきましょう。ー」
長い話を聞いてから、ようやくいただきますをする。
朝から豪華な和食を食べれるなんて最高なことで、みんな朝からたくさん食べてはおかわりをする人もいた。
前田と櫻田はまだ眠そうで、うとうとしている前田の口の横にソースがついた。
「前田、口の横にソースついてんぞ」
「え、まじ?どこ?」
ソースがついているところをうまくかわしがらティッシュで口の周りを拭く前田。あまりの下手さに前田からティッシュを奪い拭いてあげる。
「さんきゅー」
ティッシュを置いて再び食べ始めると、榊が俺の名前を呼ぶ。
「樹、俺のもとって」
そう言われて榊の方を見ると、口の周りにわざとらしく付けられたソースでおばけみたいになっている榊が当たり前のような顔でこちらを見つめてくる。
「え、どしたん笑笑笑笑」
「何してんの榊笑笑笑笑笑」
「榊…笑」
3人でケラケラ笑っていると、女子の視線が少しずつこちらに向いてくる。
「え〜なにあれ?笑」
「イケメンすぎてハロウィンの仮装みたい」
こんなことをしてもイケメンだからキャーキャー言われちゃう榊。そうだったイケメンなんだった。
「ねー樹。拭いてくんないの?」
「はいはい笑笑」
笑いながら弟を扱うようにティッシュで榊の口を拭いていると、だんだん榊の顔が絵になってくる。
「やっぱイケメンだな〜、何しても許されるじゃん」
「ほんとに?俺が何しても樹は許してくれんの?」
「イケメンだから許しちゃうかもな〜」
「ま、俺は樹に何されても許しちゃうけどね。イケメンなのもあるけどその他にも色々」
不意打ちにさらっとイケメンなことを言ってくるもんだから、なんの盾も構えてなかった俺は素直に矢を刺されてしまう。
それを見ていた櫻田は苦笑いしながら言ってくる。
「…樹照れてるな。わかりやすいし素直だし、そういうところだぞ?おい榊、ほどほどにしてあげろよ笑」
俺はいまいち意味がわからなかったけど、榊には通じたらしい。驚いた顔をして櫻田を見てから、すぐに照れたように含み笑いをした。


修学旅行から帰ってくるバスの中。俺は榊と隣の席で一緒にお菓子を食べながらくつろいでいた。
「樹、これ食べる?」
俺が頷くと、榊はお菓子を手に取ったから、受け取ろうと手を出す。だけどお菓子をもらったのは、手じゃなくて口だった。
「ぁ、ありがと」
予想外のあーんに戸惑いながらも自然にやりとりをする。
榊はやたらイケメンな表情でこちらを見つめている。俺の心臓はいつもよりほんの少しだけ早くなっていた。
「…キメ顔の無駄遣いしてんじゃねー」


修学旅行も終わり、修学旅行の部屋のやつらと榊の家で遊ぶことになった。高校生の体力は恐ろしいもので、俺は家に帰るとすぐ榊の部屋に行くと、ドアの前で待っている榊は爽やかな顔で俺を迎え入れてくれた。
「なんか…犬みたいだな」
「それは…どうも(?)」
「前田と櫻田はまだ来てないか」
「うん、まだ」
榊の部屋に入ると、ゲームの待機画面が映し出されたテレビがあった。
「っしゃ、先にやって待ってよ!ボコボコにしたるわ」
腕まくりをして気合いを入れる俺。
「お手柔らかに頼むわ笑」
その後ボコボコにしたのは榊だった。なんでなん?
一旦休憩で水をのんでから俺は榊にゲームのコツを聞いた。榊は優しいから、敵の俺にも爽やかな対応で教えてくれる。
「ここの時はこう」
榊が自分のコントローラーを置き、俺の方に体を向けコントローラーを持つ俺の手に自分の手を重ねる。すらっとした綺麗な手が俺の手を包み込む。榊は淡々と説明してくれるけど、俺はいまいち頭にはいってこない。
"どき…どき…"
中3で榊に笑顔を向けられた時、榊の好きな人を知った時は気づかなかった。そして3度目の今、自分の胸が音をたてたことにやっと初めて気づいた。3度目の正直なのは知らずに俺の胸は大きく鼓動する。肩に触れる榊の髪と、部屋いっぱいの榊の匂いと、包み込んでくる綺麗な手が、何かいつもと違う空間を作り出しているような感じがする。俺はわけがわからず、きょどりながらも平然を装いながら榊のアドバイスを聞く。
(なんで俺こんなドキドキしてるんだ…こんなこと別に普通やろ……なに、…なんだこれ…落ち着け俺…)
「分かった?……樹??」
顔を覗き込まれる。
「ぬぉぁっ…!……うん…ありがと」
しまった。変な声出た。
榊は思わず控えめに吹き出して笑い出す。
「どういう感情の声だよ笑笑」
恥ずかしさに顔を逸らし、榊のベットに顔を埋めるふりをする。
「あーおもしろ笑笑 修学旅行帰りだしゲームしたし笑ったし…疲れたな〜、眠い…あ、寝る?前田と櫻田が来るまで昼寝!」
「よっしゃそうしよ、俺も眠いし…」
このいつもと違う雰囲気をどうにかしたい俺にぴったりと、昼寝と言うちょうどよく雰囲気を紛らわすイベントが来た。
来たと思ったけど、現実はそう簡単ではないらしい。
一難去ってまた一難…。。一羞恥去ってまた一羞恥……。榊がベットの右半分に寝てベットの左側をポンポンしているからだ。
「…一緒に寝んの?」
「だめ?」
「だめ…では…ないけど」
「ほら寝よ」
俺は榊に腕を優しく引っ張られ榊の腕の中に閉じ込められた。胸の奥が熱くなるのを自覚できる。
なんか最近、榊のスキンシップが増えている…?いや違うか、俺が榊の対応にどんどんなぜか反応してるんだ。俺、どうしちゃったんだよ。
「近…くね…」
恥ずかしさに榊の胸に顔を埋めて隠す。
榊が俺の背中を撫でた。やけに手つきが優しくて、ペットになった気分。
(榊っていい匂いするよな…)
無意識のうちに声に出てたらしい。榊が嬉しそうに俺を優しい目で見てくる。
「ありがとう?笑 樹の匂い、俺、好きだよ」
「ど、どうも」
なんかやっぱり甘い。雰囲気が。おい、榊。その目やめてくれ。溶かされそう。
内心焦りながら目を閉じる。俺はいつのまにか榊の腕の中で寝ていた。
俺が起こされたのは、10分後ぐらい。起こされて軽く寝ぼけてた俺に、俺を擁護しながらピースする榊と、腕の中で心地良さそうにすやすや眠っている俺のツーショを見せられて秒で目が覚めた。盗撮した犯人の前田は、榊に頼まれて4人のライングループにその写真を送った。

全員が榊の家に集まると、さっそくゲームをし始めた。今はお菓子の買い出しを賭けて、榊と俺、前田と櫻田の2対2で戦っている。
「はいはい勝っちゃうよ〜?」
前田の挑発に俺はまんまとのって、出しゃばりすぎて
「「はい、勝った〜〜〜」」
結局負けた。
「「行ってこーい笑笑」」
「ポテチとチョコな〜〜」
「アイスも買ってこいよ〜」
飛び交う2人の要望にうるせーと返事して、榊と2人で玄関を出る。
暖かい日差しと、ちょうどいい微風を感じながら2人でゆっくり道を歩く。鳥の鳴き声や車が走る音を聞いて、田舎に生まれてよかったと実感する。
スーパーに着くと、想像以上の寒さに身震いする。薄着で来た俺も悪いけど。
そんな俺を見た榊は、自分が着ていたジップパーカーを俺に着せてきた。
「いい、いいよ。それじゃ榊が寒いじゃん」
「樹が寒い方がヤダ」
「俺だって榊が寒いのいやだわ」
ジップパーカーを脱ごうとするが、すぐに榊に止められた。
「じゃあ俺は樹がハグしてくれたらそれで十分」
さらっと意味がわからないことを言う榊。
「ぁあ…え…ハグ…俺が??」
平日のスーパーだから店員さん以外誰もいない。ほぼ貸切状態のスーパーに俺と榊の声が響く。
「うん、樹が。俺はカーディガン絶対受け取らないよ?」
「まじで冗談じゃないの??」
榊がなぜ俺のハグを求めるのかさっぱり分からないけど、多分人肌を感じたいんだろうか。しばらくして俺は躊躇しつつも、しかたなく榊の腰に両腕を回し、密着する。さほど変わらない俺らの身長だと、見上げるのは俺。目線を少し上げ榊の目を見ると、榊はなぜかため息をついた。
「…破壊力ぅぅ〜…、。」
「黙ろっか。そんなきもいかよお前が頼んだくせに」
「……………可愛すぎて」
「そっ…ちの意味かぁ……てか俺男なんだけど?可愛いってなんだよ」
やけに幸せそうな顔をして、微笑みのような…にこにこのような…にやにやのような…たまらない絶妙な笑みを浮かべる榊。俺は恥ずかしくなり、足早にスーパーの中を歩いていく。
榊は駆け足で俺の隣に並ぶと、にこっと笑い髪を撫でてきた。

「ポテチと…あと…チョコどこだ…」
2人で要望のお菓子をカゴに入れ、最後にチョコを探す。
「あ、これじゃね?」
榊の声を聞いて、榊の方にあるのかと思い後ろを振り向くと、目に入るのは榊の後ろ姿ではなく顔だった。ぶつかるギリギリで止まれたけど、俺と榊の顔の距離は数センチだけ。榊がこっちを向いてると思わなかった。榊は少し驚いた顔で固まり、俺が元々探していた棚の少し左をさしている指先は空中で力が少しずつ抜けていく。
榊は冷静を保ち一歩引いた。俺は心臓の動きが早すぎて、一歩下がるとかそれどころじゃない。
「……ごめん。イケメンだね」
心臓がバクバクしている。また胸の奥からじわじわと熱くなる。
咄嗟に褒めちゃった。事実だから問題ない。よな。
「さらっと褒めんな。ほらチョコ、こっち」
榊はまた、元々俺が向いてた方向の少し左を指差した。チョコを手に取り、高鳴っている鼓動を無視しながらレジへ行く。
「…行こ」
「うん」
榊の家へ戻っている途中。俺はさっきのキスしそうなくらい近くにあった榊の顔が頭から離れない。なんとなくぎこちない空気が2人の間に流れる。
「…あ、パーカー返す」
脱ごうとしたけど、また榊に止められた。
「いや、いい。もうちょっと着てて。かわ………俺暑いから」
「あぁ…うん、分かった」
なにか言いかけてたのは気になるから気にしないことにして、また沈黙の空気が2人の周りに漂う。
こんなにも気まずいのに、俺の心臓が未だに早いのは、おかしいと思う。まぁお化け屋敷とかに行った後もしばらくは心拍数は高いから普通、だよな、。びっくりしただけ。そう、びっくりしただけ。

榊の家に着いた。ドアを開けて、前田と櫻田にお菓子の入った袋を掲げて見せる。
2人は嬉しそうにお菓子の袋をパーティ開けして、4人でお菓子を食べ始める。
「…ところで榊さん、さらっと俺のものアピールやめろ?」
櫻田が急に榊に目配せをしながら喋る。榊は照れたような嫌がっているような反応を見せた。どうやら2人だけに通じる話をしているらしい。なんだかモヤモヤして、お菓子を口の中にいっぱいに詰めた。
「おい、樹?そんな一気に食べたらむせるぞ」
まだむせてないのに俺の背中を優しく撫でてくる榊。それから俺の髪を優しくポンポンしてきた。確信した。やっぱり榊のスキンシップ増えてる。それもキュンキュンするようなやつ。