「……ふぁ~っ」

やばい、寝不足が効いてる。昨日の夜更かしが今キテる。
机に向かうのもきつくなってきた夜12時を過ぎた頃、んーっと両手を上げて背筋を伸ばした。
もう少しやってから寝たいんだけどな~、ちょっとここの復習だけでも…わかりずらかったからちゃんと確認したいって思ったんだけどこのままやっても身に着かないかなぁ。

「ふあぁ…っ」

もう一度あくびをしようとしたところで、ガチャッとドアが開く音が聞こえた。
お母さん帰って来たのかな、今日は結構遅かったんだなぁ… 
ガタン…ッ 
え、なに!?今の音…っ 
すごい大きな音が響いた…!

「お母さん…!?」

慌てて自分の部屋から出て玄関の方へ向かった。
何の音!?何があったの、何が…っ

「大丈夫!?」

横たわっているお母さんがいた。ヒールの高い靴はを片方履いたまま、小さなポーチみたいな鞄は投げつけたみたいにその場に転がって。

「お母さんっ!」

しゃがみ込んで近付いた瞬間ぶわっと香る嫌な臭い…

「まほぉ~~~~!」
「酔ってる!?」

急に起き上がったと思ったらそのまま私にぎゅーっと抱き着いた。

「お母さん大丈夫?あ、水持って来るからっ」

ゆっくりお母さんから離れて立ち上がった、台所に水を取りに行こうと思ったところでお母さんに手を掴まれた。その手はゾッとするほど冷たくて。

「いっくんに振られちゃった」

いっくんはこないだの人、お母さんの彼氏。

「子供がめんどくさいんだって」
「……。」
「ねぇこれで何度目だと思う?」
「…っ」

ぎゅっと掴む力が強くなる。顔をゆがめて私を見て。

「あんた大学行くの?」

乱れた前髪に乱れたメイク、お酒とたばこの匂いが入り混じる。血相を変えて詰め寄ってくる。

「そんな金ないから!!」

怒鳴る声が響き渡る。

「それともなに!?あたしをおいて出て行く気なの!?あたしを1人にする気なの!?」
「お母さん…っ」
「行かせない大学なんか!絶対行かせないから!!」
「…っ」
「早く就職して稼ぎな!!!」

引っ張られるように掴まれた手が離され、その勢いで音を立てて床に膝をついた。摩擦で膝が熱い、熱くて痛い。

「あんたもどーせこんな大人になるのよ、あたしの娘なんだから」

早く大人になりたい。
いい大学に入って、いい会社に勤めて…
私がなりたい大人はどんなだっけ?
私は何になりたいんだっけ?
あぁまた歪んでいく。うねうねと曲がっていく。
もうそこに光なんてない。