「まーほっ」
「梨奈…」
「宿題見せてっ♡」

昨日は寝るのがちょっと遅くなってしまった。宿題を終わらせるのに時間がかかっちゃって、そのあとも勉強してたからいつもより布団に入ったのが遅くなって少し寝不足だった。

「真穂やって来たよね?」
「やって来たけど…」
楠本(くすもと)先生宿題忘れると居残りさせられるし、それは避けたいの!」

私が来るのを待っていたかのように教室に入った瞬間呼び止められた。ノートとシャーペンを持って、私の前に立つから。

「自分でやらないと意味なくない?」

ふぅっと息を吐いて避けるように教室の中に入った。

「宿題だよ?それは自分でやらないと私の見てるだけじゃダメだよ、自分のためにならないから」

毎回毎回私の写してるだけじゃ何にもならない、こうゆうのは自分でやらないと。だけど頼って来られたのを突き放すみたいなのはよくない、見せてあげることはできないけど他に出来ることはあるから。

「教えてあげるから梨奈も自分で…っ」

やってみたら?って言うつもりだった。だけど振り返って梨奈を見たら…

「そんな言い方しなくてもよくない?」

蔑んだ顔で私を見てた。

「ちょっと勉強できるからって感じ悪っ」

吐き捨てるみたいに、さっきまできゅるっと笑っていた梨奈の顔はもう別人みたいで。

「もういいや、めんどくさっ」

スッと私から視線を外し、隣を横切って行く。
……。
めんどくさいって何が?宿題が?それとも、私が?
何それ?私、間違ってる?
やってこなかったのはそっちでしょ、やりもしないで人に頼ろうとする方がおかしいんじゃないの?
どうして私が悪いの…感じ悪いのはそっちでしょ。
あぁイライラする。どうしてこう歪んでるのかな。

歪んで見えてるのは私だけなの?

「おっ、香野今日はもう帰るんだ?」

ホームルームが終わったからさっさと帰ろうと下駄箱まで早歩きで向かったら会ってしまった。でもそんなこと今はどうでもよくて振り返ることなく上履きをしまってスニーカーに履き替えた。

「香野?」
「…。」
「どうかしたか?」
「…別に」

トントンと靴を鳴らして歩き出す、早く帰って今日も勉強しなきゃだし。宿題も予習も復習だってあるんだから。知切の横を通り過ぎて、玄関から出ようと一歩踏み出した。

「ねぇ」

だけど、異様に足が重くて止まってしまう。

「なんだ?」
「……。」

振り返る気力はなくて、背中を向けたままだったけど。

「今度バットの振り方教えてよ」

太陽が眩しくて上を向けない。でも下を向いたままだったら、太陽の光が反射してつやつや輝く窓ガラスを見なくて済むから。

「まかせとけ!特大ホームラン打てる振り方教えてやるよ!」