えっと、ここがX=3だからyは…
テストが終わった図書室はいつもより人が少なくて静かだった。昨日お母さんとお母さんの彼氏と鉢合わせちゃったから今日はちょっと学校で勉強してこうかなって、また家帰ってあれだとめんどくさいし。
どこからか風が入って来て気持ちいい、ちょっと気を抜いたら眠ってしまいそうなくらい…でも今日は宿題多いんだよね、ここでやれるだけはやっていきたい。わかんなかったら先生にも聞けるし家でやるよりはかどっていい。あと予習もしたいし、復習もしておきたいし。
図書室の1番奥の隅っこの机の、さらに隅っこに座って。
たまーに本を借りに来る人はいるけど図書室に来る人はみんな大人しくてちゃんとTPOわかってる人だから助かる、宿題は多いけど勉強はしやすくて…
「あ、香野さん何してんのー?」
次のページをめくろうと思ったら視界にキラキラと金色がチラついた、わざと覗き込むように私の視界に入って来たから。
「なっ、知切…くん!?」
「知切でいいし、俺も香野でい?」
「ここ図書室だけど…」
あ、思わず険しい顔見せちゃった。こんなとこで会うとは思わなくて、あまりに似つかわしくないところだったからもしかして来るとこ間違えてんじゃないのって。
「え、知ってるけど?」
……。
逆に険しい顔で返された。
そうだね、そうだよね?
図書室にいる人にここ図書室だよって意味わからないよね!?いやでもだってっ
なんでこんな金髪ピアスのやつが…!
絶対来るとこ図書室じゃないでしょっ
せっかく静かでいい感じなのに、こんな派手なやつが来たら集中できない…!!!
「香野、ここ違うよ」
「え、どこ?」
「ここ、この数字拾ってくるとこ間違ってる!これじゃなくて、こっちから…」
「あ、本当!通りですっきりしない数字だなーって思ってたの!」
…って、金髪ピアスに間違い指摘されてる!?
ナチュラルに受けた指摘にギョッとした表情で顔を上げたら知切はじぃっと私のノートの方を見ていた。
「ここ間違えやすいんだよな~、ここ覚えといた方がいいぞ!」
おまけにアドバイスまでされて。
は?なんで??なんでこいつに…
しかもしれっと前の席に座ったし。
勝手に人の教書に手を伸ばしてペラペラとめくり出して…
は?何やってんの?邪魔なんだけど、勉強したいの!居座らないでくれるかな!?
「書き込みすごっ」
「…。」
「めっちゃ勉強家じゃん!」
「…勝手に触らないでくれるかな」
サッと教科書を取り返した、なんかイラッとして。
勉強するでしょ、学校なんだから高校生なんだからてゆーか受験生なんだからっ!
「すげーちゃんとまとめてあんの、これ大変じゃね?」
「…普通でしょ、授業聞いてたら」
「聞くだけでこんなできんの!?すげぇな」
…バカにしてんの?
そりゃ髪染めてピアス開けて自由にやってるあんたとは違うから、こっちは必死にやってるの。
「えらいね香野」
「は?」
「だって毎日一生懸命勉強してんでしょ、じゃなきゃいい成績は取れねーじゃん」
「……。」
何、それ。
なんであんたにそんなこと言われなきゃ…
「別に、自分で決めたことだから」
やっぱり家帰って勉強しよう。ここじゃ落ち着かない。
「自分で決めたからやってるの、それをえらいとか言われる筋合いないから」
「かっけぇ」
「バカにしてるでしょっ」
つい力が入っちゃってダンッと机を両手で叩きながら立ち上がってしまった。
あ、やばここ図書室!怒られ…っ
サッと椅子に座った、何事もなかったように。これ以上ここにいたら追い出される、その前に帰らなきゃ。
「マジでそう思ったんだけど」
「え?」
「バカになんかしてない、マジで思った」
「……。」
な、何…だから何なの?なんでそんなこと…
「かっけぇーよ」
まっすぐ見て来るから、頬杖ついてじっと私の顔を見て来る。凛とした瞳が私を捕らえるみたいに。
「別に…っ、私は知切のがカッコいいと思うけど?大病院の息子なんて羨ましいぐらいカッコいいよ」
もう帰ろうと思ってノートを閉じてシャーペンと消しゴムを筆箱にしまう。続きは家に帰ってからやろう、まだ宿題は終わってないし。
「そ?案外そうでもねぇよ」
「え?」
……。
かすかに聞こえた気がした。知切の方を見たら目を伏せて、金髪に似つかわしくない顔をしていた。
なに、その顔…
「あ、なんで窓ガラス割ろうと思ったわけ?」
「………は?」
次に視線を上げた時にはもう全然違う表情をしてた、ケロッとした顔で首をかしげてこれはこれで厄介な顔してた。
「もしかして青春したかった!?」
「……。」
「それともそこにバットがあったから的な?山理論!」
「…。」
何、山理論って。そんな理論に基づいてとかないし、そこにバットがあったのは確かだけど。そこにバットがなかったら、握ってみようとは思わなかったかもしれないけど。
どうなのかな、でも無性に振りたくなってしまった。
あの瞬間、つやつやに磨かれた窓ガラスを見たら…
「ちょっと、壊してみたくなったの」
この日常を。全部、粉々に。
出来ないかなって、思ってしまった。
「…てゆーか割ろうと思ってないから!割ろうとしてないし!」
そんなことしようとしてない、してないから…
「も少しバットの振り方勉強した方がいいよ」
「え?」
「あんなへっぴりじゃ力伝わんなくて無理だから」
むかつく…
なんだこいつ、マジで。ハハッて笑いやがって。
「ちなみに俺中学ん時野球やってたからいつでも教えてやろう!」
「結構です」
結局、家に帰って宿題をした。予習をして復習をして、賞味期限の切れたカップラーメンが1つ残っていたからそれを夕飯に食べた。1週間ぐらい切れていたってどうってことないからね。
お母さんは今日は遅いらしい、たぶん仕事…だよね?仕事じゃないのかな、まぁどっちでもいいや。
「…私もバイトしないとなぁ」
カップラーメンの3分は案外長くて、勉強の合間に食べようと思ったのに余計なことを考えてしまうから嫌だ。
バイトしたら勉強出来ないし、勉強するとバイトが出来ない。去年まではしてたけど、人生のかかった受験の時ぐらいはって…でもお金がないのは生きていくのに問題だ。去年貯めた分があるからどうにかまだいいかなって感じだけど。
「…あ、3分たった」
とりあえずカップラーメン食べよう、それで宿題してまずはそれからね。まだやっていけなくはないもんね。
…早く、大人になりたいけど。
テストが終わった図書室はいつもより人が少なくて静かだった。昨日お母さんとお母さんの彼氏と鉢合わせちゃったから今日はちょっと学校で勉強してこうかなって、また家帰ってあれだとめんどくさいし。
どこからか風が入って来て気持ちいい、ちょっと気を抜いたら眠ってしまいそうなくらい…でも今日は宿題多いんだよね、ここでやれるだけはやっていきたい。わかんなかったら先生にも聞けるし家でやるよりはかどっていい。あと予習もしたいし、復習もしておきたいし。
図書室の1番奥の隅っこの机の、さらに隅っこに座って。
たまーに本を借りに来る人はいるけど図書室に来る人はみんな大人しくてちゃんとTPOわかってる人だから助かる、宿題は多いけど勉強はしやすくて…
「あ、香野さん何してんのー?」
次のページをめくろうと思ったら視界にキラキラと金色がチラついた、わざと覗き込むように私の視界に入って来たから。
「なっ、知切…くん!?」
「知切でいいし、俺も香野でい?」
「ここ図書室だけど…」
あ、思わず険しい顔見せちゃった。こんなとこで会うとは思わなくて、あまりに似つかわしくないところだったからもしかして来るとこ間違えてんじゃないのって。
「え、知ってるけど?」
……。
逆に険しい顔で返された。
そうだね、そうだよね?
図書室にいる人にここ図書室だよって意味わからないよね!?いやでもだってっ
なんでこんな金髪ピアスのやつが…!
絶対来るとこ図書室じゃないでしょっ
せっかく静かでいい感じなのに、こんな派手なやつが来たら集中できない…!!!
「香野、ここ違うよ」
「え、どこ?」
「ここ、この数字拾ってくるとこ間違ってる!これじゃなくて、こっちから…」
「あ、本当!通りですっきりしない数字だなーって思ってたの!」
…って、金髪ピアスに間違い指摘されてる!?
ナチュラルに受けた指摘にギョッとした表情で顔を上げたら知切はじぃっと私のノートの方を見ていた。
「ここ間違えやすいんだよな~、ここ覚えといた方がいいぞ!」
おまけにアドバイスまでされて。
は?なんで??なんでこいつに…
しかもしれっと前の席に座ったし。
勝手に人の教書に手を伸ばしてペラペラとめくり出して…
は?何やってんの?邪魔なんだけど、勉強したいの!居座らないでくれるかな!?
「書き込みすごっ」
「…。」
「めっちゃ勉強家じゃん!」
「…勝手に触らないでくれるかな」
サッと教科書を取り返した、なんかイラッとして。
勉強するでしょ、学校なんだから高校生なんだからてゆーか受験生なんだからっ!
「すげーちゃんとまとめてあんの、これ大変じゃね?」
「…普通でしょ、授業聞いてたら」
「聞くだけでこんなできんの!?すげぇな」
…バカにしてんの?
そりゃ髪染めてピアス開けて自由にやってるあんたとは違うから、こっちは必死にやってるの。
「えらいね香野」
「は?」
「だって毎日一生懸命勉強してんでしょ、じゃなきゃいい成績は取れねーじゃん」
「……。」
何、それ。
なんであんたにそんなこと言われなきゃ…
「別に、自分で決めたことだから」
やっぱり家帰って勉強しよう。ここじゃ落ち着かない。
「自分で決めたからやってるの、それをえらいとか言われる筋合いないから」
「かっけぇ」
「バカにしてるでしょっ」
つい力が入っちゃってダンッと机を両手で叩きながら立ち上がってしまった。
あ、やばここ図書室!怒られ…っ
サッと椅子に座った、何事もなかったように。これ以上ここにいたら追い出される、その前に帰らなきゃ。
「マジでそう思ったんだけど」
「え?」
「バカになんかしてない、マジで思った」
「……。」
な、何…だから何なの?なんでそんなこと…
「かっけぇーよ」
まっすぐ見て来るから、頬杖ついてじっと私の顔を見て来る。凛とした瞳が私を捕らえるみたいに。
「別に…っ、私は知切のがカッコいいと思うけど?大病院の息子なんて羨ましいぐらいカッコいいよ」
もう帰ろうと思ってノートを閉じてシャーペンと消しゴムを筆箱にしまう。続きは家に帰ってからやろう、まだ宿題は終わってないし。
「そ?案外そうでもねぇよ」
「え?」
……。
かすかに聞こえた気がした。知切の方を見たら目を伏せて、金髪に似つかわしくない顔をしていた。
なに、その顔…
「あ、なんで窓ガラス割ろうと思ったわけ?」
「………は?」
次に視線を上げた時にはもう全然違う表情をしてた、ケロッとした顔で首をかしげてこれはこれで厄介な顔してた。
「もしかして青春したかった!?」
「……。」
「それともそこにバットがあったから的な?山理論!」
「…。」
何、山理論って。そんな理論に基づいてとかないし、そこにバットがあったのは確かだけど。そこにバットがなかったら、握ってみようとは思わなかったかもしれないけど。
どうなのかな、でも無性に振りたくなってしまった。
あの瞬間、つやつやに磨かれた窓ガラスを見たら…
「ちょっと、壊してみたくなったの」
この日常を。全部、粉々に。
出来ないかなって、思ってしまった。
「…てゆーか割ろうと思ってないから!割ろうとしてないし!」
そんなことしようとしてない、してないから…
「も少しバットの振り方勉強した方がいいよ」
「え?」
「あんなへっぴりじゃ力伝わんなくて無理だから」
むかつく…
なんだこいつ、マジで。ハハッて笑いやがって。
「ちなみに俺中学ん時野球やってたからいつでも教えてやろう!」
「結構です」
結局、家に帰って宿題をした。予習をして復習をして、賞味期限の切れたカップラーメンが1つ残っていたからそれを夕飯に食べた。1週間ぐらい切れていたってどうってことないからね。
お母さんは今日は遅いらしい、たぶん仕事…だよね?仕事じゃないのかな、まぁどっちでもいいや。
「…私もバイトしないとなぁ」
カップラーメンの3分は案外長くて、勉強の合間に食べようと思ったのに余計なことを考えてしまうから嫌だ。
バイトしたら勉強出来ないし、勉強するとバイトが出来ない。去年まではしてたけど、人生のかかった受験の時ぐらいはって…でもお金がないのは生きていくのに問題だ。去年貯めた分があるからどうにかまだいいかなって感じだけど。
「…あ、3分たった」
とりあえずカップラーメン食べよう、それで宿題してまずはそれからね。まだやっていけなくはないもんね。
…早く、大人になりたいけど。



