数日後——、再びルミナスにアケミが訪れていた。静かな午後のカウンターで、ソラと穏やかに談笑している。
「でもさ、ミルクティーって不思議だよね。甘いのに、なんか切なくなるときがあるっていうか」
「それは、アケミさんの心に、何か甘くて切ない記憶があるからかもしれませんね」
「なにそれ……うわ、今のちょっと沁みたかも」
アケミが笑いながらカップを傾けたとき、扉の鈴が鳴った。
ソラがそっと顔を上げる。
そこには、あの日と同じように、長い髪でそっとうつむいたこのかの姿があった。
肩から小さなトートバッグを下げていて、今日はその肩を預けられる人もなく、ひとりだ。
「いらっしゃいませ」
ソラはいつもと変わらぬ、けれどどこかやさしさの滲む声でそう告げた。
アケミが驚いたように振り返る。
「……あっ、あのときの子……!」
このかは少し戸惑ったように足を止めたが、すぐにソラのやわらかな微笑みに安心したように、小さく会釈した。
「今日は、おひとりですか?」
問いではなく、確認するようなその言葉に、このかはほんのわずかに頷く。
「……家にいると、お母さんが……すごく心配するから。できるだけ、出かけるようにしてて……」
その声はか細いながらも、どこか決意を滲ませているように響く。
「クラスの子には、会いたくなくて。だから、人通りの少ない道を歩いてたら……ここに来てて……」
アケミがにこりと笑みを浮かべた。
「うん、それ正解。ここは、ちょっと休むにはぴったりの場所だよ」
ソラもそっと目を細める。
「ようこそ。ご無事にたどり着いてくださって、嬉しいです」
このかはかすかに微笑み、入り口の近くで少しだけ迷った末、前回と同じ窓際のテーブルへと歩き出した。
アケミには、その背に誰にも気づかれないくらい小さな、でも確かな決意が宿っているように見えた。


