国の擬人化達と暮らし始めて、はや一週間。
ここ一週間、ベッドに倒れたら気付いたら朝っていう生活だった。
ずっと一人だったのに、学校でも私生活でもイケメン男子との共同生活で神経が疲れ切っていたのかもしれない。
台湾くんも増えたしね。
しかし、今日は子供から大人までみんな大好きな日。そう、日曜日!!そして明日は祝日!!
カレンダーの赤字を見てニヤニヤしていた瞬間、
「マリア様、おはようございます!起きていますか?」
ドアをノックする音とイタリアくんの声が聞こえた。
「あ、うん。おはよう!」

今日の朝ご飯当番は、ヨーロッパ圏のイタリアくんとロシアくん。
同じヨーロッパだから食べる物も似ているのかと思ったら、全然違った。
イタリアくんは基本的ビスケットなどの甘い物。
ロシアくんはカーシャと呼ばれるお粥。ロシアではパン以外にもお粥も主流なんだって。お粥といっても素材はお米じゃなくて、蕎麦の実なのだとか。
「菜羽ちゃん、カーシャ食べる?それともシルシキの方が良い?」
ロシアくんの言うシルシキは、白チーズを使ったパンケーキの一種。サワークリームやジャム、溶かしバターと一緒に楽しむのが一般的なんだそう。
「マリア様、今日は、、、僕とイタリア観光しませんか?ローマのスペイン広場ではジェラートを食べたり、アマルフィ海岸を眺めたり、イタリアには観光地が沢山あるんです!」
向かい側に座っていたイタリアくんに突拍子もなくそう言われ、飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
「え〜、ロシア()の方が良いよ。赤の広場では聖ワシリイ大聖堂などの綺麗な建造物を見ることが出来るし、ショッピングを楽しみたかったらグム百貨店。ゴーリキー公園には遊園地やカフェ、ボートも体験できるよ。ちょっと大人のデートがしたかったらボリショイ劇場やエルミタージュ美術館もあるよ」
ニコニコとそれに加わるロシアくん。
「待て待て、二人共待って!私、お金ないし、時間ないよ!?」
絶対に日帰りで帰れる距離じゃない!!
「勝手にデートの予定を立てないでほしいです。菜羽は今日、僕と萌えのイラストを描く約束をしているから」
黙々とカーシャを食べていた台湾くんが口を挟む。
デート?観光じゃなくて???
「それに、台湾()のところは夜市が有名なので、夜まで楽しめます」
「待って、さらっとデートプランを混ぜ込まないで!?」
やいのやいのとご当地自慢大会ならぬ、小競り合いが始まってしまった。
ロシアくんは怖い笑みを浮かべているし、、、あれ、後ろにいるのは冬将軍?
イタリアくんはもう武器になっちゃっている包丁を取り出しているし。
台湾くんはポケットの中に手を突っ込んでいる。ポケットの中で握っているのは爆竹の可能性大。
オロオロしてたら、日本くんが日課の散歩から帰ってきた。
「あらあら、若い子達は良いですね」
バチバチと火花を散らす三人を見て何故が微笑んでいる。
「そうだ!今日の菜羽ちゃんはロシア()と」
台湾()と」
イタリア()と」
「「「デートプラン対決だ!!」」」
声を揃えた三人に、私は口に運びかけたスプーンをお皿の上に落としてしまった。

デート?私が?何処にでもいる平々凡々の私が?デート?
自分の部屋に戻った私は、全身ガクブルしている。
いやいやいや、何かの冗談でしょ。うん、聞き間違えたんだ。デートじゃなくてパン屋のデイリーだよ、きっと。うん。
自己暗示をしながら、クローゼットを開ける。
白色の猫耳パーカー。下はふんわりとした黄緑色のスカート。まともな私服はこれしか持っていなかった。他は変な柄のTシャツとか部屋着とか、、、、
「じゃあいってきまーす」
「台湾、お土産頼んだあるよ」
「気を付けて下さいね」
「夕飯までは帰ってきて下さい」
「今日の夕飯当番は俺とタイ説出てる〜!」
「イタリアー、可愛い子がいたら教えて〜」
「了解!」
三人は準備万端で待ってくれていた。
ロシアくんはいつも通りロシア帽を被っているけど、白色のTシャツの上に深緑色のカーディガンを羽織っている。ロシアくんにしては薄着だ。イタリアも台湾も暑いからかな?
イタリアくんはいつもの帽子に仕立ての良いシャツに、長い足が際立つ黒色のスキニーパンツ。
台湾くんは赤色のリボンの飾りが付いている紺色のパーカーに白色のズボン。
「い、いってきます」
必死の覚悟を決めてリュックを背負い、玄関をくぐった。
「で、デデデデートというのは何処に?」
「はい!午前は台湾に行って、昼はロシア。午後三時くらいからイタリアです!!」
イタリアくんが自家製のしおりを見ながらニコニコと話す。いや、しおり作るの早いね!?
「で、でもでも、外国に行くには時間かかるし、ロシアとイタリアと台湾に行って日帰りで帰ってこれないよ!?」
一番近くて台湾。飛行機で二時間かかる。
「菜羽。忘れているかもしれないけど僕達は”国”そのものだよ。手を繋いで」
差し伸べられた台湾くんの手を掴む。
私のもう片方の手はイタリアくんが、台湾くんのもう片方はロシアくんが握る。
「じゃあ、ワープ!」
台湾くんがそう言った瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。
「着いたよ」
台湾くんの声でハッと我に返り、目を開ける。
街の(いた)る所に赤色の提灯が飾られ、沢山の人がわらわらと行き交っていた。
「ここは、、、どこ?」
歡迎(ようこそ)、台湾へ。ここは提灯とスイーツの街、九份(きゅうふん)だよ」
「うそぉ!?」
私は大声を上げて腰が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
「わ、ワープしたってこと!?でも、そんなアニメみたいなこと起こる訳、、、」
「僕達は人間じゃないから、自分の国内なら何処へでも行けるんだ」
「そ、そうなんだ、、、」
あれ?じゃあ、帰る時はどうしたら良いの?という疑問が頭をよぎったが、まぁ何とかなるでしょ精神で今は台湾観光を満喫することにした。
それにしても、ワープって凄い。頭では分かっていても、どこからどう見ても中学男子だから『人間じゃない』って実感が湧いていなかったんだ。
こんなの体験したら、嫌でも実感が湧いてきた、、、。
「九份に来たなら芋圓(ユーユェン)を食べないとね」
「僕はウォッカが飲みたいな。どこで売ってるの?」
「僕はパスター」
「売ってないよ」
私は恐る恐る手を上げた。
「あ、あの、、、三人って一体何歳なの?」
今思えば国の擬人化だし、絶対私より年上だよね。一番年下のアメリカくんでさえロシアくんに約三百年って言われていたくらいだし、、、。
イタリア()は約二千五百歳くらいです!」
ロシア()は約千三百歳かな?」
台湾()は約四百歳、、、?詳しくは忘れた」
ど、どうしよう。敬語を使った方が良いのかな?
そして弟味のあるイタリアくんが思いの外、この三人の中では最年長。だって二千五百歳だよ!?
「マリア様、驚くのはまだ早いです。最年長の中国は五千歳です!」
「ごっ、、、」
仙人!?
だから、ぎっくり腰とかになってたの!?つい二日前の深夜に『よっこいしょぉぉぉぉ』という捻り潰された中国くんの声が中国くん&台湾くんの部屋から聞こえてきた時はマジでイギリスくんに泣き付いた。