リビングで虫発生事件から一段落が付いた頃、チャイムが鳴った。
「我が出てくるあるー」
中国くんが玄関の方に向かった。
十秒もせずに中国くんが戻って来ると、後ろにパーカー姿の少年。
少し丈の長い切りっぱなしの白色のパーカーで、おしゃれな感じだ。パーカーに小さく書かれている『HOPELESS』という文字が少し気になった。
数秒、その子と目を合わせる。綺麗な青髪で、一房だけ三つ編みにしている大人しそうな少年だった。
「、、、台湾です。得意なことは風水(ふうすい)と萌えのイラストを描くことです」
手を差し出されて、私はギョッとしてしまった。
「台湾くんなのっ!?タピオカの発祥(はっしょう)地だから、流行の最先端をいく『陽気なお兄さん』タイプにしてみたんだけど、、、」
他にも夜市が有名だからキラキラしている感じに描いたはずなんだけど、、、。
「まぁ、、、それも有名だけど中国文化と台湾()独自の文化が融合(ゆうごう)しているから、、、こんなキャラデザになったらしい」
「四千年の歴史あるね!」
哥哥(にーに)は少し落ち着いた方が良いよ」
、、、???
「つまり、私のキャラデザが採用されているとことされていないとこがあるってこと?」
「そゆこと。、、、で、絵を書いてるって聞いたけど、何で描いているんですか?デジタル?アナログ?」
「一応、スケッチブックで描いて、、、」
「なるほど。色塗りは色鉛筆?それともペン?」
「細かい色味が出せるから色鉛筆で塗ってるけど、、、」
素直に答えると、ガシッと手を握ってきた。
「僕達、良い友達になれそう!!」
「???」
きゅ、急にキャラが変わった!?
「アナログって良いよね。もちろんデジタルも描きやすいんだけど、紙の安心感というか安定感というか、そういうのが紙にはあるよね。色塗りはペンの方が早いけど、色鉛筆みたいに細かい濃淡を出せる訳じゃない」
うんうんと頷きながら語る台湾くん。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「あー、気にする必要ねーある」
問題ない、とばかりに中国くんは答え、いつも肩に乗せてあるパンダを撫で始めた。
四川(しせん)は可愛いあるねー!よーしよしよし」
パンダの名前は四川というらしい。
気を取り直して台湾くんの方を見る。まだ、萌えについて語っている。
台湾()高雄(たかお)市にある地下鉄はね、元々は赤字事業だったんだけど、萌えキャラのお陰で黒字になったんだよ。高雄市長や政治家達は萌え文化に理解あるから、積極的に萌えを取り入れているんだよ」
タブレットの画像を用いて早口で解説をしてくれる台湾くん。それに少し引いている中国くん。
「菜羽、ひとつ忠告しとくある。台湾が爆竹(ばくちく)を持ったらすぐ逃げろある」
「え?爆竹?」
爆竹って、音が鳴る花火のこと?
「ぶん投げてくるあるよ」
「え」
真顔でそう言う中国くん。