「フランスくん、フランスの歴史教えてほしいんだけど、、、良いかな?」
「フランスの歴史に興味を持ってもらえて嬉しいね。Bien(良いよ)。俺で良ければ何でも話そう」
パチンとウィンクをするフランスくん。
「本当!?ありがとう!!」
そうして、放課後を使って一対一のフランスの歴史を教える会を開くことになった。もちろん、教師役はフランスくんだ。
フランスくんは黒板の前まで歩き、何の歴史が良いのか聞いた。
「一番印象的な歴史とかある?」
「一番印象に残ってる歴史、、、か。珍しいな、ほとんどの子はナポ公とか知りたがるんだが」
ナポ公というのは、かの有名なナポレオンのことだろうか?
「菜羽ちゃんは、『百年戦争』って知ってるか?」
フランスくんが黒板に百年戦争と書く。その横に年数も付け加えて。
「イングランドとフランスの戦いだよ。イングランドは今のイギリスのことなー。領土だの羊だの王位だの、何個も火種が重なって起きたんだ!!王様がとっ捕まって身代金三百万エキュふっかけられたり散々。三百万エキュは三千億円。当時のフランス王家の年収の約二倍!」
フランスくんの声が少し低くなった。
「そして百年戦争が混乱を極めた時、一人の少女が風のように現れた。変装して紛れ込んだ王の前にひざまずき、彼女は言った。『王太子様!天の王は告げました。貴方を王にしなさいと、、、!!』さて問題、この少女の名前は分かるかな?」
「確か、、、ジャンヌ・ダルクだったような」
去年の夏、ジャンヌ・ダルクについてテレビで特集が組まれてたから。
「正解!!分かってたんだね、さすが菜羽ちゃん!」
「は、はぁ、、、」
(凄い喜びよう、、、)
フランスくんは黒板に丁寧な字で『Jeanne d'Arc』と書く。
「彼女は百年戦争を語る上で欠かせない人物だ。知っているならジャンヌのおさらいをしよう。彼女はまず、消極的だった王の気持ちに火を付け、オルレアンを解放し、敵だらけのなか王をフランスへ送り届け、シャルル七世の戴冠式(たいかんしき)をランスで果たすことに成功した。その間、たったの四ヶ月!凄いよねぇ!」
「でも確か―――火あぶりの刑にされてしまうんじゃ」
フランスくんの瞳が、過去を思い出すようにスっと細められる。
私はフランスくんが淡々と語る話を、息を呑んで聞く。
「、、、そう。あれは一四三一年の五月三十日だったな。王は最終的に彼女を見捨て、救いの手は最後まで来なかった。彼女に限らず、国の為という意志を持った人程、悲惨な最期を迎えることが多いんだよな、、、。何でだろうね」
多分、歴史の教科書に載っている内容だと思うんだけど、教科書の文を読むより、ずっとリアルな出来事に聞こえる。
まるで、その光景を見てきたような―――
「そしてフランス国内では、彼女を聖女と呼ぶようになった」
その目は、近くを見ているようで何処か遠くを見つめているようにも感じて、、、。そして、暗くなった雰囲気を破るようにパンッと手を打った。
「さて、歴史の話はここまで。あとは俺の話!歴史に翻弄(ほんろう)された人が、普通に生まれて恋をして、次の人生では何処かで幸せになってくれたら、、、なぁんて、いつも思ってるんだ。菜羽ちゃんを見た時、初めて神様っているんだなぁって思って」
フランスくんは私の手にそっと手を重ねる。
「"今度"は幸せになってな」
「え?」
フランスくんはニコニコと笑みを浮かべているが、その笑みはいつもと少し違う笑みのように感じた。
「よし、帰ろうか」
スタスタと教室を出て行ってしまうフランスくんを追いかけた。

(き、気まずい、、、)
学校を出てから、まともな会話をしていない。ずっと黙っているフランスくん。
「、、、菜羽ちゃん」
「は、はい!」
「さっきのことは気にしなくて良いからね。君は君だから、、、」
フランスくんは少し悲しそうな笑みを浮かべた。
「、、、そうだ。これを」
手渡されたのは白いユリの花の飾りが付いたヘアピンだった。
「えっ、良いの!?」
「うん。さっきの長い話を聞いてもらったお礼」
ヘアピンは太陽の光を受けてキラキラと輝く。私に勿体(もったい)ないくらい、綺麗だった。