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太陽の光が容赦なく降り注ぐこの季節。
この暑さが来たということは、待ちに待ったあの長期休暇も近い合図。
ただ___今年の夏はいつもと少し違う、そんな知らせを倉田先生が持ってくる。
「えーっと。あと1か月でキミたちが首を長くして待っている夏休みが来るが、今年から夏休みの課題が1つ増えることになった」
帰りのHRで大量のパンフレットとともにどこか気だるそうに話し出す我らのクラス担任。
パンフレットは順次、前の席から後ろへと回され始めている様子。
「まあ、資料見れば大方予想つくと思うが、この夏休みの間に何かしらのボランティア活動に参加するように。参考までに近辺のボランティア団体のパンフレットを今配布しているが、自分たちで探してもいい。ただ、夏休みに入る前にどこに行くか決めて報告するように。以上。質問ある奴は明日以降受け付ける」
倉田先生がそう言って教室を出ていくと、ちょうど手元にボランティアの資料が回ってきた。
予想通り、学童の見守りボランティアや高齢者施設へのボランティア、地元の祭りのボランティア等々が掲載されている。
1日で終わるものをピックアップして、ちゃっちゃと終わらせよう。
果歩もきっと同じことを考えているはず。
顔を上げ、果歩の名を呼ぼうとした時だった。
「斎藤さん。ボランティア決まりそう?」
隣から、耳障りのいい声が聞こえ、思わず視線を向ける。
「中村くんもう決まったの?」
私が視線を向けると、口角を少しばかり上げ、持っていたパンフレットを丁寧に閉じる。
「うん。もう決まってる。でも折角だから斎藤さんと大澤さんも一緒にどうかなと思って」
「え、私?」
中村くんは口角を上げたまま、首を少し傾けて私の返答を待った。
ボランティアの内容は置いておいて、一緒に中村くんとボランティアに行くとなると、どんな風に周り言われるかわからない。
中村くんのこと嫌いではないけれど、”波風立てず”でいくのであればここは___。
「え、行きたい!ねえ、まどかも行こうよ」
断る文句を口に出そうとしたところ、横から果歩が目をキラキラとさせて割り込んできた。
「はは、よかった。大澤さんがいてくれると心強いよ」
目の前の中村くんは、安堵したようにそうつぶやく。
「え、ほんと?それは光栄。で、中村くんの決めたボランティアって何?」
果歩は私の返答を待つことなく、近くの空いた席の椅子をこちらに寄せて腰かけ、話をどんどん詰めていく。
「うんとね、俺の地元のボランティア。期間は2週間くらいで祭りの手伝いしてほしいんだよね。交通費は自己負担ないから安心してね。あ、ちなみに……翔!」
中村くんは私たちから視線をずらし、教室を出ようとしていた大橋翔を呼び止める。
サッカー部で次期エース候補と言われている彼。
クラスの中でも果歩と並んで、ムードメーカー的な存在。
「何?」
大橋くんは、教室の端からそう返答する。
「ごめん、部活行く前に呼び止めて。前誘ったボランティア、斎藤さんと大橋さんも一緒でいいよね」
何の悪気もなく、中村くんは大橋くんへ言ったんだろう。
だが、こんな教室中に聞こえる声でそんなことを言ってしまったら、私が懸念してたことが起きるのは時間の問題。
クラス、いや学校の女子たちから目の敵にされる。
「ああ、俺はいいよ。細かいことは任せる」
大橋くんはそういって、颯爽と教室を出ていった。
目の前では中村くんは今にも鼻歌を歌いそうな勢いで笑っている。
お願いだから、これ以上余計なことは言わないで。
クラスの女子たちが私たちの会話に聞き耳を立てていることは間違いないのだから。
――そう心の中で叫びながら、私は中村くんの笑顔を見つめていた。
「よし、これでばっちり。助かったー。彩が男子ばっかりはむさくるしいから女子を連れて来いってうるさかったんだよね。俺とはほぼ別行動になっちゃうけど、楽しく終えられるよう保証はするからその点は安心して」
そういって、中村くんは荷物をまとめ立ち上がった。
「じゃあ、詳しいことはまた明日ね」
中村くんは軽やかな足取りで、大橋くんのあとを追うように教室を出ていった。
さすがとしか言いようがない。
自分の置かれている状況、私が懸念していることを瞬時に読み取り、双方若だまりがないよう立ち回る。
「いやー。惚れ惚れするよね」
中村くんが帰ったタイミングで、私と果歩以外のクラスメイトが教室から出きった。
果歩が私の机に頬杖をつきながら、私を見上げた。
「そうだね」
「逆に怖くなるくらいだけどね。中村くんはさ、あんなに周りに対してのアンテナを高く上げてて疲れないのかな。私なら無理」
「うーん、どうなんだろうね」
果歩と同じことを正直私も思ったことはある。
あの教室でのやり取り然り、他の子との会話や彼の行動然り。
だけど、彼の立ち振る舞いすべてに”無理して”が感じられない。
だから、彼にとってこれは”自然に”できてしまっているのだろうと。
そう思わずには、私はいられない。



