それから数日後。
体育の授業で校庭に出たとき、私は少し離れたところでクラスメイトと話す中村くんを視線の端にとらえた。
すでにクラスに馴染み、何人かの仲のいい子もできているようだった。
目立つタイプではないのに、なぜか気になってしまう。そんな不思議な空気をまとっていた。

「え、なに? 中村くん、気になってる?」

果歩が隣で揶揄するように言う。

「中村くん、なんか噂にでもなってるの?」

「んー、そうね。あまりにも完璧すぎて噂になってるね。隙が無いっていう話をよく耳にする」

「なるほどね」

果歩の話に関しては納得だった。
容姿端麗で頭脳明晰。かつそれらを鼻にかけることは全くせず、人柄も申し分ない。
私は、人として、彼以上に”完璧”な人をこれまで見たことはない。

「だからねー。ほら、見てよ」

果歩がそう言って、ちらり校舎の上のほうにある教室の窓に目線を向ける。
そこには、教室の窓を開けて何人かの女子生徒が、中村くんのほうに視線を向けているのが見えた。

「ファンが急増中なんだって」

そういって、果歩は苦笑しながら肩を上げた。

「何これ、本当に少女漫画じゃん」

「だよね。だから、まどかはラッキーだよ」

「え、何が?」

「だって、そんな中村くんと隣の席なんだから」

「ちょっと、やめて。何人かに嫉妬されて敵作りそう」

「まあ、大丈夫でしょ。中村くんなら、まどかにも気を使って、周りにもちゃんと配慮してそうだし」

そう言っている間に、授業開始のベルが鳴り、私たちは集合場所に急ぐ。
春の風が私の長い髪を揺らす。
春風に揺れる枝葉の音が、胸の奥に静かに響いた_____。