この世界からきみが消えても


「うん。色々心配かけてごめん」

「いや、そんなの当たり前だろ。だって────」

 翔太はそこで言葉を切った。
 続きをためらうように口をつぐみ、ばつが悪そうに視線を彷徨わせる。

「……親友、だから?」

 代わりに言ってみせると、はっと顔を上げた。
 こくこくと何度も頷いて嬉しそうに頬を綻ばせる。

「そう、そうだよ! 親友だからな」

「……くさい。何か恥ずかしいからやっぱりいまのなしで」

 ふ、と思わず笑って言うと、彼は「おい、何でだよ」と不服そうに返しながらも同じように笑っていた。
 ベッドの方へ歩み寄ってきて椅子に腰を下ろす。

「いやー、本当によかった。マジで。眠ってるおまえの顔見て、もう一生このままなんじゃないかって何回思ったことか」

「大げさだって。そんな簡単に死なないよ、俺は。大事な人たち残して死ねない」

 何気なく言ったものの、なぜかふいに翔太が動きを止めた。
 曖昧な笑みを口元に残したまま目を落としている。

「どうかした?」

「その、さ……“大事な人たち”って」

 どことなく緊張を滲ませた声色で切り出される。

()()のことも含まれてる?」

 じっとこちらを窺う眼差しはどこか祈るようでもあった。
 神妙な間が落ちてきて戸惑う。

「彼女、って?」

「……あ、いや」

 気圧(けお)されたようにしばらく言葉を失っていた様子の翔太は、我に返ると眉根に力を込めた。
 後頭部を掻きつつ小さく呟く。

「マジなんだ」

 何やら衝撃を受けているみたいだが、いったい何の話だろう。
 彼は深々と息をつくと唇を噛んだ。

「莉久の意識が戻ったのは何よりだけど……こうなると紗良ちゃんが不憫(ふびん)だな」

「え?」

「あー、もう少し待ってたら────なんてのは結果論か。お陰で俺も救われたわけだし、紗良ちゃんが真相を突き止めたからこそ莉久が目覚めたのかもしれないし」

 俺に言っているというよりは完全にひとりごとだった。
 返事も反応も求めることなく、かぶりを振って顔をもたげる。

「ごめん、いまの忘れて! 俺のエゴで台無しにするとこだった」

 不思議に思いながらも頷くことしかできなかったが、それでよかったのか翔太も頷き返してくれた。
 にしても、と話題を変える。

「大変だったなぁ。俺、危うく逮捕されそうだったんだよ」

 思いもよらない言葉に驚いて、思わず身を乗り出す。

「えっ!? 何で?」

「何かいろんな不運が重なった感じで疑われる羽目になってさ。でも、正木さん……って分かる?」

「あ、さっき病室で話した。刑事さんでしょ?」

「そうそう。あの人、真犯人が捕まってからわざわざ俺に謝罪しにきてくれたんだよ。誠心誠意、頭下げてさ」