「……彼は藤井と恋人関係にありました。ただ、対等ではなかったようで、藤井は頻繁に暴力を振るわれていたそうです。金を無心されることもあったとか。主従関係といった方が正しいかもしれません」
彼女がそんな目に遭っていることも、露ほども知らなかった。
俺を監視していたのはストーカー目的ではなかったのかもしれない。
本意かどうかは分からないが、あの男に俺の素性と現状を教えたのは彼女だろう。
それでも、犯行の一端を担っていたことに腹を立てるより同情が勝った。
ろくでもない男に散々利用され、人生を壊された彼女に。
恐れるのではなく話を聞いていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
「それで、彼はあなたの自宅から免許証を回収するよう藤井に命じていたそうですよ。ですが、いまも藤井は男の関与を否定し続けています。よっぽど報復が怖いのか、あるいはいびつながら愛があるのかもしれません」
どちらもありえそうな話だった。
もともと相手に依存する傾向が強い上、内気で臆病な性格だからそこにつけ込まれたのかもしれない。
「……あの、ちなみにどうやって犯人を突き止めたんですか? さっきは手がかりがなかったって」
「ああ、それがですね……犯人の顔を知っているという女性が現れたんですよ。現れたというか、どういうわけか突然そう言い出したんですが」
「え?」
どういうことなんだろう。
困惑を隠せず聞き返すと、正木さんも眉を寄せる。
「当初は彼女も犯人のことを知りえない様子でしたが、急に“思い出した”と犯人について語り始めたんです。“見た”とも言ってましたね」
「目撃者だったんですか?」
「いえ。その時間、彼女にはアリバイがあります。バイト先にいる姿が防犯カメラに残ってますし、同僚の従業員たちもそう証言している。事件とは関係ないところで犯人の顔を見たことがあって、何らかのきっかけによって犯人だと確信したんじゃないでしょうか」
そういうことなのだろうか。
とにもかくにも彼女のお陰で犯人が特定され、逮捕に至ったことは間違いない。
もの言えぬ俺に代わって解決に導いてくれたそのひとには、ありがたい思いが募るばかりだ。
「その女性っていうのは……」
「すみません。本人から身元を明かしたくないと強く言われてまして、詳しくは……。でも、ここだけの話、愛の力ってやつですね」
正木さんは突如として茶目っ気のある笑みをたたえた。
にやりと笑いかけられても、思い当たる節はない。


