忘れものを取りに家を出た時刻は18時47分。
約10分後に停電中のバイト先へ到着した。
それから再びお店を出たのは、少なくとも19時過ぎだろう。
通報は19時半頃だった。
そこから現場へ向かったとしたら、着いてすぐ犯行に及んで、間を置くことなく通報したことになる。
それは現実的にありえない。
(時間的に、西垣くんに犯行は無理だ)
また、立証できないことを理由に忘れもの云々の証言を無視して、18時12分にバイト先を出たとする。
そこから犯行に及んだとしたら、そのあとなぜわざわざ通報しに現場へ戻ったのか説明がつかない。
たとえば“罪悪感に苛まれたから”とかだとしたら、そもそも自首しているはず。
やっぱり、彼は犯人ではない。
「じゃあ……莉久とのトラブルっていうのは?」
それを受け、西垣くんの瞳が揺らぐ。
言葉を探すように視線を彷徨わせ、ややあって紡いだ。
「俺さ、ここのところずっと……何て言うか態度悪かったじゃん。莉久にも紗良ちゃんにも散々迷惑かけて」
「あ……それは、そう、だね」
そんなことないよ、とはさすがに言えず、正直に頷くと彼は微妙な調子で苦笑する。
「そのことを莉久に注意されたんだよ。酔ってふらふら遊んでばっかいた俺に、本気で怒ってくれた」
わたしの知る範囲だけでも、確かに彼は近頃かなり堕落していたと思う。
周囲が呆れたり敬遠したりする中、莉久だけは見放すことなく真剣に向き合おうとしていたんだ。
いかにも莉久らしい。
「でも、俺……マジで余裕なくて。彼女と別れたばっかだったし、学校とかバイト先でいろんなミスが重なってもういっぱいいっぱいでさ。自暴自棄になってたんだよな」
「そうだったんだ」
「だからひねくれて、あいつの言葉まともに取り合わなかった。それどころか、勝手にムカついて喧嘩になってさ」
何となく想像や理解の及ぶ話だ。
人望が厚く優等生の莉久は、わたしからしても基本的に何事もうまくいっているように見えた。
そんな彼が投げかけた言葉の数々は、心配であれ優しさであれ、どん底にいた西垣くんにはストレートに響くものではなかったのだろう。
瞬間的に劣等感を覚え、嫌味なんかを返したことで口論に発展したのかもしれない。
「酔いが覚めて、だんだん冷静になってきて後悔したんだ。あいつにまで愛想尽かされたら何も残らないって気づいて。……ここまで俺のこと考えてくれてる友だち、ほかにいない」


