「藤井さんが庇ってる、免許証の持ち主が黒幕。その人に脅されて従ってるなら、このまま警察に連れて行かれても、代わりに罪を被るか黙秘し続けるんじゃないかな。でも、それじゃ解決しないから……」
それこそ、莉久が目覚めてくれない限りは。
そう思ったとき、西垣くんがベッドの反対側に回り込んだ。
柵に手を置いて不可解そうな眼差しを向けてくる。
「言いたいことは分かるけど……説明になってないって。藤井さんに何しようとしてたわけ?」
「それは────」
どう説明するべきか瞬間的に思考を巡らせたとき、着地する前にノックの音が響いた。
扉の方を向くと、遠慮がちにスライドして正木さんが姿を現す。
「……少し、いいですか」
3人でラウンジへと移るも、正木さんは険しい面持ちで立ったままだった。
おもむろにわたしたちに向かって頭を下げる。
「今回のこと……病室に藤井由乃の侵入を許したのは我々の失態です。本当に申し訳ない」
突然の謝罪に驚いて、思わず西垣くんと顔を見合わせる。
彼はそろそろと顔をもたげ、言葉を繋いだ。
「それでも、最悪の展開を未然に防いでくれたことに感謝しています」
とても手放しで喜べる状況ではないものの、そればかりは幸いと言えた。
本当は怒るべきなのかもしれないけれど、何だか気が抜けてそんな気にはなれない。
正木さんの誠意を素直に汲むことにした。
「……藤井さん、どうなるんですか? 最初に莉久を襲ったのも彼女だったってこと?」
西垣くんが不機嫌そうに尋ねる。
彼としては、莉久の安全をおろそかにした警察に憤りつつも、どうにか抑え込んだ結果なのだろう。
「いえ。我々の見立てでは、藤井はあくまで協力者といったところです。主犯は別にいて、彼女は利用されたに過ぎないでしょう」
「そいつは?」
「藤井の周辺を当たれば絞れるかと。おふたりも、何か気になることがあれば教えてください。どんな些細なことでも」
腰を下ろした正木さんは、言いながら前のめりになった。
その双眸が鋭い眼光を帯びる。
「……あの」
気づいたときには、口をついていた。
「免許証のことは調べてますか?」
「……免許証、ですか」
「はい。藤井さんが莉久の家から持って帰ったものなんですけど……たぶん、彼女のじゃないです。莉久のものでもないと思う」
もしあれが莉久のものだったとしたら、わざわざ藤井さんに回収させる意味も必要もないだろう。
そう言うと、正木さんは真剣な表情で手帳を取り出した。
何やら書き込んだかと思えば、ぱらぱらとページをめくって内容を検めている。


