彼女がやってのけたみたいに、地道にSNSの海から見つけ出すしかないだろうか。
あるいは同級生だった西垣くんならコンタクトを取れるかもしれない。
そんなことを考えながら、藤井さんの大学をあとに学校へと向かった。
「あ、紗良ちゃん」
講義室を目指す途中の階段で、西垣くんに声をかけられる。
挨拶を交わすなり、わたしは藤井さんのことを彼にも伝えた。
「このタイミングで辞めたって……逃げたんじゃないの?」
あからさまに怪訝な様子で眉を寄せる。
いっそう疑惑を深めたみたいだ。
「西垣くんがそう思うってことは、とっくに警察も怪しんでるよね」
「だろうね。何にしても、藤井さんの行方探すのは警察に任せるしかないか」
「それなんだけど、西垣くんは藤井さんの連絡先とか知らない?」
「あー……うん、ちょっと前から消えてた。ブロックされてると思う」
苦い表情で言う。
いわく、メッセージアプリから何度かメッセージを送ってみたものの、返信はおろか既読すら一向につかないらしい。
SNSに至ってはアカウントごと削除されていると言う。
「そっか……」
一筋縄ではいかない現実にため息がこぼれた。
藤井さんに会うことさえできれば、一気に真相に近づけるのに。
扉が見えていても、その取っ手に手が届かないようなもどかしさを覚える。
完全に端緒を見失ってしまった。
講義を終えて大学をあとにすると、西垣くんと一緒に莉久の病院へ行くことにした。
依然として眠り続ける彼は口をつぐんだまま。
だから、せめてわたしが真実を見つけて無念を晴らしたいという思いが強まっていた。
そうすれば、莉久も意識を取り戻して還ってきてくれるかもしれない。
100年の眠りから、王子さまがお姫さまをキスで目覚めさせたみたいに。
院内の廊下を進み、エレベーターに乗り込む。
ふたりになると、おもむろに西垣くんが口を開いた。
「無理してない?」
ひときわ優しい声色を受けて「えっ?」と思わず聞き返す。
「だって通い詰めなんでしょ。その上、学校とバイトも……紗良ちゃんまで倒れちゃうよ」
「あ……ううん、大丈夫。莉久が目を覚ましたとき、そばにいたいから」
そして、思いきり抱き締めたい。
失った“当たり前”を取り戻して、こんな日々を遠い過去にするために。
「ありがとう、心配してくれて」
そんなやり取りを経て病室へたどり着くと、西垣くんが取っ手を掴んだ。
そのまま横に引いた彼ははたと動きを止める。
どうしたんだろう。
肩越しに室内を覗くと、薄暗い中で何かが動くのを捉えた。
「莉久……!?」


