そこには西垣くんが言っていた通りの現場が映し出されており、規制線が張られて警察が出入りしていた。

 画面越しだというのにそのものものしさに圧倒され、思わず両手を握り締める。

『刺された男子大学生は現在も意識不明の重体で、警察は殺人未遂事件として逃げた犯人の行方を追うとともに調べを進めています』

 莉久の事件に関するニュースはそこで終わってしまい、何事もなかったかのように次の話題へ移っていく。

 何だか他人事みたいで、実感が逃げていった。
 悪い夢に放り込まれたみたいに現実感が乏しく、追いつかないどころか霞んでしまう。

 いつものように学校へ行けば、いつものように莉久に会えるような気がした。



 講義室へ入ると、人の姿はまばらだった。
 適当な席に座って荷物を下ろしたとき、ふと横に気配が現れる。

「……おはよ」

「西垣くん」

 意外な姿に驚いてしまう。
 最近は遅刻やサボりが目立っていて、莉久やわたしに資料なんかを頼ることが多かった。

「おはよう。珍しいね、朝から来るなんて」

「まあね。……何かひとりでいるの怖くて」

 苦く言った彼の言葉を受け、病室で見た莉久の様子や今朝のニュースのことが脳裏(のうり)に浮かんだ。
 遠ざかっていたリアリティというものが、ひたひたと寄ってきて背中に張りつく。

「朝ね、ニュースでやってた。莉久のこと」

「あ……俺も見た、それ。まだ犯人捕まってないんだな」

 胸やお腹を刺された、と報道されていたことを思い出し、血まみれで倒れる彼を想像して身体の芯が強張る。
 無意識のうちにきつく拳を作っていた。

「……犯人、誰なんだろう。莉久が誰かに恨まれるなんて思えないのに」

 不安定ながらわずかに声色が尖ったのを自覚する。

 許せない、という気持ちがいっそう強くなった。
 誰より優しい莉久をあんな目に遭わせて、わたしたちの時間を奪った犯人が。

 西垣くんは口をつぐんで目を落とした。
 何かを迷うような、思うところがありそうな態度。
 尋ねる前に口を開く。

「あのさ。俺もそう思ってずっと考えてたんだけど、実は心当たりがあって」

「え?」

 驚いて顔を上げると、彼の真剣な眼差しとぶつかる。

「犯人、に?」

「そう。言いづらいんだけど……あいつの元カノが怪しいんじゃないかって思ってる」