藤井さんの本意なのか、暴力を(もっ)て無理やり従わされているのかは分からないけれど。
 ともかく、彼女を脅しているのと免許証の持ち主は同一人物だろう。

「でも、何でそれが莉久の家にあったんだろう?」

 いずれにしてもその点が不可解だ。

 彼の知り合いか、少なくとも関係がある人物ではあるのだろう。
 莉久の手元にあるということは、面識がないとおかしいはずだから。

「そいつが莉久の家に来て、忘れていったか落としていったか……みたいな感じか」

 西垣くんの言葉は的を射ていると思う。
 それが最も現実的で妥当(だとう)な可能性だった。

「でも、女の子に暴力振るって従わせるようなやつ、莉久の友だちにいるか?」

「確かにそれは思うけど……親しい人とも限らないし」

 とにもかくにも、話していてもこれ以上は憶測の域を出ない。
 わたしは一旦足を止め、西垣くんに向き直る。

「とりあえず、今日も病院行こうと思う。西垣くんは?」

「あー、俺も行く。バイト終わってからになるけど」

 都合のいい巡り合わせだった。
 それまでの間に、今度は莉久の持ちものからサイコメトリングしてみよう。

 藤井さんの例によって、あくまでものが対象なら記憶に影響はないと判明したし、彼自身に触れられなくても得られる情報はあるはずだ。
 そのことに気づけたのは幸いで、大いに希望となり得る。

「じゃあ、またあとで」



     ◇



 一度帰って昼食を済ませてから病院へ向かった。
 正木さんや警察の姿がないことを確かめると、静かに莉久の病室へ入る。

 どことなく緊張していた。
 この能力自体が本物だと分かったいま、よくも悪くも何らかの結果を得られるだろうという、確かな手応えがあるから。

 事件に関するものか、あるいはそうでないものかもしれないけれど、莉久の中で沈んでいる真実の欠片を拾えるはず。

 ベッドの上の彼を何となく見つめてから、備えつけの棚の方へ足を向けた。
 そこには普段、莉久が通学に使っているトートバッグが置かれている。
 搬送されたとき、現場から回収されたものだろう。

「……ごめん、ちょっと借りるね」

 そう断ってから、中身を取り出して並べた。
 教材やペンケースといった学校関連のもの、財布、スマホ、それから小さな紙袋。
 白地にショップ名が印字されていて、正木さんの言っていたアクセサリーショップのものだと分かった。

(これ、もしかしてわたしに……?)