だけど、頭の中は常に疑問や疑念で満たされており、無数の“可能性”が幾重にも絡まり合っている。
そのひとつひとつをほどいていくのは、とても現実的じゃない。
「莉久が目覚めてくれたら、ぜんぶ分かるのに……」
あるいは、サイコメトリーにあれほど残酷な代償がなければ。
気が遠くなるような思いでぽつりとこぼすと、西垣くんは姿勢を戻して目を伏せる。
背もたれに体重を預けながら、ややあって答えた。
「……そうだな」
ふと、窺うようにその横顔を眺めてみる。
睫毛の落とす影が、意外と繊細な彼の一面を物語っているみたいだった。
「西垣くん」
ゆっくりとこちらを向いた彼に切り出す。
「あのさ、藤井さんの大学って分かる?」
◇
授業が終わってから、西垣くんとともにひと駅向こうにある大学へ赴いた。
場所だけ聞ければひとりで行こうと思っていたのだけれど、彼が「俺も行く」と強く主張したため一緒に向かうことにした。
ちょうど昼の時間帯とあってか、キャンパス内は行き交う人で賑わっている。
ふと、近くの棟から出てきた人影を認めてはっとした。
黒髪にメガネ姿、紛れもなく藤井さんだ。
「いた」
反射的に駆け出すと、彼女の前に飛び出す。
驚いた様子で目を見張ったものの、わたしを見て「あ」という顔をした。
意外だけれどどうやら覚えているみたいだ。
もしかして、サイコメトリングの対象が“人”ではなく“もの”なら、記憶は消えないのだろうか。
「ちょっと、紗良ちゃん。置いてくなよな」
「あ、ごめんごめん」
追いついて文句を垂れた西垣くんに慌てて謝っておく。
彼を認めた藤井さんは、ますます驚いたような表情を浮かべた。
「西垣くん……」
「久しぶりだね、藤井さん。元気そうで何より」
あれだけ疑っていたにも関わらず、表面上はかなり友好的な態度を装っている。
彼の性格からして、会うなり疑念をぶつけて責め立てるのではないか、とはらはらしていただけに少し気が抜けた。
そのためについてきたのかと思ったけれど、ちがうのだろうか。
「西垣くんも」
藤井さんは困ったように笑いながらそう返す。
彼女たちと莉久が高校時代の同級生であることは、それぞれの話から察しがついていた。
そういう繋がりがあるのなら、莉久が西垣くんにストーカー的な一件について相談していたことも納得できる。
事実かどうかは別として。
「あの……ところで、何しにここへ? まさかわたしに会いに?」
「“まさか”ってことはないでしょ。ほかに理由があると思う?」
ふいに、西垣くんの言葉の端々に棘が潜んできた。
彼としては、やっぱり疑わしい藤井さんを糾弾したい意図があるのかもしれない。
だけど、わたしが彼女に会いにきた目的は別のところにある。


