慌ただしくスマホを取り出してトーク画面を開いてみる。
【いまから行くね。20時半には着くと思う!】
その送信時間は“18:32”となっていた。
わたしの返信には当然ながら既読がついていない。
その時点では既に、搬送された病院で応急処置の真っ只中だっただろう。
正木さんの話とあわせると、これは恐らくアクセサリーショップを出たときに送られてきたものだと思う。
そこからわたしの家の方へ来るには、電車とバスで1時間弱。
その中途で夕食の食材や惣菜なんかを買おうと考えていたのだとしたら、確かに多めに見積もってもだいたい20時半くらいにはなるだろう。
「……どうかされました?」
「あ、いえ」
不思議そうな正木さんに、誤魔化すように笑い返すとスマホをしまう。
彼の目をはばかる余裕も損なっていた。
ふと冷静になってここまでの話を踏まえると、目の前に絶望という名の壁が立ちはだかっていることに気がついた。
「あの、つまり……手がかりがないってことですか?」
「はい、とは言いたくないんですが、実際認めざるを得ません。現状はどんな可能性も“ない”とは言いきれない」
正木さんは悔しげに眉を寄せる。
少し意外な姿だった。
熱心な印象は当初から変わりないけれど、はじめは何だか形式的で、淡々と業務をこなしているだけのように見えた。
だからこそ、その無神経さにも腹が立った。
だけど、実のところは誰よりひたむきに事件に向き合ってくれているのかもしれない。
彼の態度が軟化したのは、わたしへの嫌疑が晴れたからなのだろうか。
あるいは刑事としてではなく、正木さん自身の意思かもしれないけれど。
「誰が怪しい、とかは……」
思わずそう尋ねてしまったのは、藤井さんのことが頭をよぎったからだった。
万引きのことはともかく、一連の不可解な言動を流すことはできない。
警察がどこまで掴んでいるのか、彼女のことを疑っているのかどうか気になった。
「捜査上のことなので詳しくはお話しできませんが、現段階では何とも。容疑者が複数いるとしか」
それにしたって、今日は惜しみなく情報を共有してくれたように思う。
けれど、微妙な心境には陥ってしまう。
やっぱりその中にはわたしもまだ含まれているような気がしたから。


