授業が終わると、大学からそのまま莉久の家へ向かった。

 結局、サイコメトリーなんて突飛な能力の話は、西垣くんには伏せておいた。
 まだ半信半疑だし、正直に伝えたとして信じてくれるとは思えない。

 鍵を開けて上がったはいいものの、何となくそこから動けなかった。

 勝手に部屋の中を探るなんてやっぱり莉久に悪いし、あまりに非常識だ。
 そう思うからこそ、ここに入った時点で罪悪感に足を掴まれていた。

 けれど、西垣くんに言わせれば、それじゃだめだといったところなんだろう。

 真相を知りたい気持ちは同じだと思っていた。
 だけど、彼は想定以上に本気だった。

 覚悟なんてないまま流されるだけのわたしより何倍も必死で、莉久を想う情の深さが負けているんじゃないかと不安になる。
 罪悪感や常識を優先するなんて、わたしの想いが足りないのかもしれない。

(……わたしだって同じだよ)

 莉久が大切なのも、犯人を突き止めたいのも、何があったのか知りたいという思いも。
 だから、少なくともいまは一旦割り切ろう。

 躊躇に折り合いをつけると、靴を脱いで上がった。

 ────けれど、結果としてリップは見つからなかった。

 そう広い部屋ではないし、探す場所も限られている上にものが少ないから、見落としているとは考えにくい。
 だけど、たとえば収納をひっくり返してみても、ソファーやベッドの下を覗いてみても、どこにもなかった。

(藤井さんの言葉は、本当に嘘だった……?)

 落胆と疲労感から力が抜けてしまう。
 愕然と放心している部分も少なくなくて、床にへたり込んだままうなだれる。

 散らかしてしまったものたちが嘲笑うようにわたしを取り囲んでいた。
 だけど、逆に言うと、これだけ探ってみても特に怪しいと感じるようなものは出てこなかった。

 触れてみても、あのハンカチみたいに何かヴィジョンが浮かんでくるようなこともない。

 あれはたまたま見た幻で、サイコメトリーなんてやっぱり思いちがいだったのだろうか。
 何だか分からないことだらけで、戸惑いが肌を逆撫でていく。

 ────藤井さんは嘘ついてると思う。

 西垣くんの言葉が蘇ると、心臓をつままれたような気分になった。

 嘘をつくということは、隠したいことがあるのだろう。
 何かを隠している。
 藤井さんが、なのだろうか。あるいは莉久が?