その勢いに気圧されていると、ふいに我に返った様子で彼は言葉を切った。
「ごめん。責めてるわけじゃなくてさ……あ、いやそうなんだけど」
言葉尻が萎んでいくものの、西垣くんは正直にわたしを非難した。
びっくりした。まさかそんなふうに怒られるとは思わなくて。
それほど心配してくれるなんて意外だった。
「……ごめん、わたしこそ。確かに軽率だったよね」
藤井さんの言うことを迂闊にまるごと信じてしまったのは確かだ。
昨日、莉久の家でふたりきりになったとき、彼女がわたしに手をかけようとしていた可能性だってあったのに。
けれど、それを踏まえても昨日抱いた彼女に対する直感が間違いだったという確信は得られない。
「西垣くんが藤井さんを疑ってるのは分かるよ。でも、わたしはちがうと思う」
その考えにもまた確信が持てないで、声の芯が揺らいでしまうけれどはっきりと告げた。
「ちがう、って犯人じゃないってこと?」
「うん。もう莉久には未練とかもないって言ってたし、詳しくは話せないけど、藤井さんの事情聞いたら納得できたっていうか。ストーカーは誤解だったって」
「……それ、信じるの?」
ひときわ懐疑的な声色と眼差しを向けられる。
西垣くんは淡々と言葉を繋いだ。
「俺はやっぱり、その話聞いても藤井さんが怪しいって思うよ。莉久に執着してたことは事実だし」
「それは……」
「しかもさ、人を丸め込むための事情なんていくらでも作れると思わない? 紗良ちゃんは、藤井さんの言動で“おかしい”って感じることなかったの?」
見透かされたようで心臓がどきりとする。
家に招き入れてからの、一連の不可解な行動が自然と蘇ってきた。
「……正直、不自然なところはあったと思う。一緒に上がったんだけど、藤井さん、テーブルで免許証見つけるなり取って帰っちゃって」
「免許? 藤井さんの?」
「そう言ってた、けど……。うん、とにかく違和感はあったかな。忘れものも今度でいいって、何か逃げるみたいに」
伏せておきたかったであろう事情を一から十まで語って、そこまでして彼の家に上がり込んだというのに、目的のリップを回収せずに帰ってしまうなんてやっぱりおかしい。
次の機会を待つ余裕があるようには見えなかったのに。
「何で莉久の家に藤井さんの免許証があるんだよ」
「分かんないけど」
「変だな、やっぱり。見るからに怪しい」
眉をひそめた彼は腕を組み、片手を顎に当てた。


