そう言われて、すぐに思い当たる節があった。
『紗良ちゃんは……ちがうよな?』
無遠慮にわたしを疑ったあの発言や態度のことだ。
いつになく控えめな様子なのは、無神経だったといくらか反省して、悪びれているからかもしれない。
たったひとことだけで、その出来事を指していることやそんな機微にまで気づいてしまったわたしもまた、少なからず気にしていたのだと自覚する。
「大丈夫、もういいから」
ほんのり頬を緩めながら言うと、西垣くんも気が抜けたみたいだった。
ほっとしたように強張りをほどいたのが見て取れる。
それから、ふと表情を引き締めた。
「一応言っとくけど、俺もちがうから。警察にもそう言ったし……」
「うん、疑ってないよ」
思わず小さく笑ってしまう。
彼はきまりが悪そうに目を落としつつも、口の中で「ありがと」と呟いた。
とっさに“疑っていない”と言ってしまったものの、実際のところわたしが西垣くんをどう思っているのかは自分でも分からなかった。
最初に莉久を発見して通報したのは彼だし、莉久の件に対して終始動揺しているように見える。
きっとわたしと似たような立場にあるのだと思うと、いまのところ心証は悪くないし、疑惑も湧いてこない。
犯人を、真相を知りたい気持ちは同じだろうから。
「……そういえばわたしね、昨日会ったよ。莉久の元カノの藤井さん」
箸を動かしていた西垣くんの手がぴたりと止まる。
驚いたように顔をもたげた。
「マジで? 何で?」
「偶然会ったの、莉久の家の前で」
「え、何であの子がそんなとこに……。やっぱつきまとってたのかな。あ、莉久がいない間に勝手に家に入り込もうとしてたとか!」
眉をひそめたかと思うと苦い顔になり、そしてはっと思いついたように目を見張る西垣くん。
しかもその憶測はあながち間違っていないどころか、ある意味合っている。
「う、ん。まあ、そう……なんだけど。どうしても莉久の家に行かなきゃいけない理由があったみたいで」
万引きの常習犯だった、とか、彼女が省みて精算しようとしている過去については伏せておくことにした。
「何それ」
「なんていうか……忘れもの? を、取りにきてたみたいな」
曖昧に伝えると、西垣くんはますます怪訝そうな表情をたたえる。
「それで? まさか家に上げたりしてないよね」
「した」
こればかりは事実だし、誤魔化すことなく端的に答える。
目を瞬かせた彼は、衝撃と呆れ混じりに「嘘だろ」とこぼした。
音を立てて箸を置き、前のめりになる。
「あの子、莉久のストーカーだって言わなかったっけ? しかも犯人の可能性が高いって話もしたよな。なに考えてんの? それでもし紗良ちゃんに何かあったら……」


