血の気を失った肌を見れば、尋常ではない事態に巻き込まれているのは明白だった。

 いったい何があったんだろう。
 冷えた汗で寒気がして、肌が(あわ)立つ。

 そのとき、病室の扉がノックされた。
 応答を待たない形式的なそれとともに開かれると、スーツ姿の男の人がふたり立っていた。

 わたしを認めるなり一瞬目を見交わし、ひとりが苦笑混じりに歩み出てくる。

「あ……っと、すみませんがちょっとご退室願えますか」

 40代前後と思しき彼は、笑みをたたえてはいるものの有無を言わせない圧がある。
 戸惑っているうちに、促されるままに廊下へと連れ出されていた。

「我々もね、ついさっき通報者の方からお話を聞いたばっかりで。予断(よだん)を許さない状況なので、ひとまず今日のところは面会謝絶ということで」

「通報者の方からって……。あの、もしかして刑事さんなんですか?」

「ええ、そうです。あなたは────」

「紗良ちゃん」

 ふいに声をかけられた。
 振り向くと、警察に付き添われている西垣くんの姿があった。

「西垣くん……!」

 思わず駆け寄ると、喉のあたりに詰まっていた呼吸が通り抜けていく。
 縮んだ心臓が元に戻って、少しだけ全身の強張りもほどけた。

「では、失礼します」

 刑事や警察はそれぞれ義務的な会釈を残してきびすを返していく。
 どことなく現実感が追いつかない光景の中、縋るように西垣くんを見つめた。

「ねぇ、何があったの? 莉久が刺されたって、何で……」

「俺もまだよく分かってないんだけど、俺が見つけたときにはもう意識もなくて血まみれで……」

 苦しげに眉を寄せる彼の言葉にはっとする。

「じゃあ“通報者”って西垣くんのことなの?」

 そう尋ねると、こくりと小さく頷いた。
 第一発見者も彼ということになる。

 衝撃を受けてしまい、強い喉の渇きを覚えながら意を決して口を開く。

「詳しく教えて。莉久はどこで、どんなふうに……」

 彼の口にした“血まみれ”という言葉に引っ張られ、残酷な想像がよぎって言葉が途切れてしまう。
 動揺や混乱を隠せないわたしに、西垣くんは静かに答えた。

「大通りを曲がったところに古着屋あるだろ? 俺のバイト先の。その近くの路地裏。最初に足が見えて、近づいたら……倒れてたのが莉久だったんだ」

「うそ……」

「服とか地面とか真っ赤で、傷なんかもう分かんないくらい。大急ぎで救急車呼んだから、何とか命に別状はないって。でも」

 一度、言葉を切った西垣くんがうつむく。

「目覚める保証はないって。いつどうなってもおかしくないって話だった」