「でも……お店側のデータと照らし合わせても、いくつか足りないことが分かって」
「それは、藤井さんが盗んだものとは限らないんじゃ?」
思わずそう言うと、彼女は再び首を横に振る。
「わたしです。ものに心当たりがあったから」
「何だったんですか?」
「化粧品……リップです。それが数本」
そういうことなら、確かに断言したことにも納得がいく。
藤井さんは言葉を繋いだ。
「家じゅう探したけど見つからなかった。だから、もしかしたら前に高原くんの家で落として忘れてきたのかもって」
ありえない話ではないと思う。
莉久の家に目星をつけたのは、万引きを繰り返していた時期と交際のタイミングが重なっていることからして不自然じゃない。
藤井さんがいままで気づかなかったのも、盗品そのものに意味があるわけではないから頓着していなかったせいだろう。
たとえばソファーや棚の下なんかに転がり込んでいたら、動かさない限り莉久も気づかないと思う。
いまでもそこに放置されている可能性はあった。
「まだあるならどうしても返して欲しくて、高原くんにお願いする隙を窺ってたんです。メッセージアプリのアカウントは連絡取れなくなってたから、勝手にSNSのアカウント調べたりもして」
「それでコンタクト取ってたんですか?」
「いえ……その前に今回の事件が起きてしまって」
理解はできたものの、そう簡単に納得のいく話ではなかった。
結局のところ最初の疑問は解消されていない。
「それなら、何のために莉久の家に……」
「入れないって分かってたけど。もし警察とかが来て、捜査なんかでそのリップが見つかったらわたしが疑われるかもしれないと思ったから」
つまり、鍵を破って不法侵入をしてでも回収して、我が身を守りたかったということだろう。
その方が色々と問題があるような気がするけれど。
確かに、少し調べるだけでそのリップが盗品であることはきっと掴まれてしまう。
当時のメッセージのやり取りなんかが残っていれば一目瞭然だし、履歴を消したとしても手遅れだ。
万引きのことを莉久が知っていたと言うのなら、就職という転機に際して、過去の過ちをバラされるのを恐れて殺そうとした、という動機になりうる────かもしれない。
「考えすぎだと思いますけど……」
「そんなの分からないでしょ。顔見知りってだけで疑われるんですよ」
感情の込もった彼女の反駁には、何も言い返せなかった。
わたしも同じ理由で懐疑を向けられたということもあり、説得力がある。


