思わず聞き返した声は上ずってしまった。
驚愕と困惑に包まれながら彼女を見返す。
まさか、自白だろうか。
西垣くんの睨んだ通り、莉久に手をかけようとしたのはほかでもない藤井さんだった?
そんなわたしの考えは全面的に顔に出ていたようで、彼女はすぐさま首と手を振る。
「と言っても、高原くんの一件とは無関係です! もう1年以上前の話だし……」
「……何をしたんですか?」
そう尋ねると、藤井さんの瞳が揺れる。
とはいえ告白した時点で打ち明ける覚悟を決めていたのか、ほどなく観念して口を開いた。
「万引きの常習犯だったんです」
「万引き?」
「大学受験のストレスで手を出してから、何かあるたびに繰り返すようになって。欲しくもないものでも、盗むと気が紛れるからやめられなくて……。何度も後悔したけど、気づいたらもう自分ではどうしようもなくなってました」
深刻な面持ちに気圧され、口をつぐんでただ聞いていることしかできなかった。
けれど、もともと理解や共感を求めてはいないようで、彼女は滔々と続ける。
衝撃的な話だけれど、わたしの問いかけと、あるいは莉久の一件とどんな関係があるんだろう。
「捨てるに捨てられない盗品がどんどん溜まっていって。なのに、結局また同じことをしてしまう。その頃でした。わたしと高原くんが付き合ってたのは」
彼の名前が出てどきりとした。
当たり前かもしれないけれど、莉久からそんな話は聞いたことがない。
「わたしからは言い出せなかったけど、高原くんに気づかれたみたいで、何度も説得されたんです。お店に謝罪して、商品を返しにいくかちゃんと買い取ろうって。俺もついていくから、って」
実際にそんな状況に置かれたら、彼はきっと迷わずそう言うんだろう。
容易く想像がつくほど、実に莉久らしい言葉だった。
「でもわたしは……そんなこと怖くてできなかった。バレたら人生が終わる。だから、ひとりで行くって断って」
藤井さんは一度言葉を切ってうつむく。
一時的とはいえストレスを忘れることができたから、スリルに伴う瞬間的な高揚感の虜になったんだ。
それでもきっと、長いこと罪悪感や自己嫌悪を引きずって苛まれてきたのだろう。
莉久の言葉が正しいと分かっていたからこそ、盗品を売ることも捨てることもできずに。
「……結局、いまもそのまま?」
窺うように尋ねるも、彼女は首を横に振った。
「わたし、大学辞めて就職することになったんです」
「えっ?」
「学費とか生活費とか賄えなくなって……。だから、これをきっかけに後ろめたい過去を精算しようと覚悟決めたんです。溜まってた盗品をぜんぶ、お店に返しにいくことにしました」
唐突に話が飛んだような気がしたものの、内実ちゃんと繋がっていた。
背筋を伸ばした藤井さんは、けれど、またすぐに目を落とす。


