ソファに水無瀬と並んで、ぼけーっとテレビを見ていた。
 土曜日の午前十時。休日まっさかりである。珍しく休みが重なったのにこれでいいのか、と思わなくもないが、このチルい感じこそが正しい休日な気もする。
 開けた窓から涼しくもどこか侘しさを感じる風が入ってきて、秋の訪れを思わせた。
 ちらっと水無瀬の横顔を見る。カフェオレが入ったマグカップにふぅふぅと息を吹きつけながら、情報番組に見入っていた。各地のブランドさつまいも特集らしい。時々小さく「おぉ……」と感嘆の声を漏らしている。こりゃいい視聴者だ。
 水無瀬が焼き芋の湯気に夢中になっているのをいいことに、俺は水無瀬を鑑賞することにした。
 社会人になっても相変わらず童顔だ。よく学生バイトに間違われると嘆いていた。水無瀬は鼻や口といったパーツはちょこんと小さめなのに、瞳がくりっとしていて大きい。
 茶色がかっていて、紅茶を煮詰めたような色合いをしている。瞬きするたびに長いまつ毛が揺れた。
 そう、水無瀬は結構まつ毛が長い。下向きだから目立たないだけで、近くで見ると綺麗に生え揃ったまつ毛が扇のように広がっている。
 ……いつもながら綺麗な目だ。ずっと見ていたくなる魅力がある。おかげで大変視線を逸らしがたい。
 と、そこで俺は水無瀬の左の眦に一本まつ毛がついているのに気付いた。このままほうっておいたら何かの拍子に目に入りかねない。
「水無瀬」
 静かに呼びかけると、水無瀬が不思議そうにこちらを向いた。うわ、今にも入りそう。俺は慎重に動いた。
「マグカップ、置いて」
「え……」
 水無瀬はやや驚いたように目を丸くした後、ぎこちない動作でマグカップをローテーブルに置いた。
 一方の俺は右手を水無瀬の顔に伸ばす。水無瀬の目がきょろきょろと左右に揺れた。うわ、待て、動くな。
「まっすぐこっち見て」
 水無瀬がぎくりと止まった。よし、これなら取れそうだ。
 位置を見誤らないよう、顔を寄せる。指先が水無瀬の眦に触れる。
「……っ」
 水無瀬がぎゅっと目を瞑った。ぎょっとしたが幸いまつ毛はすでに俺がつまんでいた。
「よし、取れた」
「……え?」
「ん?」
 水無瀬がうっすら目を開ける。こちらに少し顔を突き出して、唇をほんの少し開いている。
 この表情、この様子。かなり見覚えがある。
 ……もしかして。
 俺がにやーっと笑うのと、水無瀬の顔がじんわり赤らんでいくのはほぼ同時だった。
「キスされると思った?」
「――っ!」
 一気に水無瀬の頬が林檎みたいに染まる。口をぱくぱくして物も言えないらしい。俺は笑いを堪えきれなかった。
「あはは、ごめんごめん。まつ毛、目に入りそうになってたからさ」
「おまっ……や、ややこしいんだよ!」
 あまりの恥ずかしさからか、水無瀬の目がうっすら潤んでいる。
 ……可愛いすぎて食べてしまいたい、なんて表現をよく聞くけど、その気持ちがちょっと分かった。
「じゃ、もう一回、目瞑って」
 水無瀬の頬に右手を添えて、キスをした。
「ん……」
 さっきと同じように薄く開いた唇の隙間に誘われて、ゆっくり舌を差し入れる。
 戯れるように絡めて、余韻を残すように離れて。キスを終えた水無瀬の瞳はさらに潤んで、輝きを増している。
 ――綺麗だ。
 やっぱり食べてしまうのはもったいない。
 だから味見だけさせてもらうことにした。
「……水無瀬」
 やんわりと体重をかけて、水無瀬をソファの上に押し倒す。水無瀬は逆らうことなく、じっと――熱を帯びた瞳で俺を見上げてくるのだった。