「もうちょっと身長欲しかったな……」
隣を歩く背の高い奴の頭を見上げながら、ふと呟いた。歩きながらちゅーっとパック牛乳を飲んでいた御子柴がきょとんとする。
「もうちょっとってどんくらい?」
「……せめて175くらい」
「水無瀬、今、何センチ?」
「171……」
ちなみに高校一年生から一ミリも変わってない。成長が止まってるのは明白だった。
「あ、俺は180ちょうどです」
「聞いてない」
自分との身長差で大体分かる。あと胴体と足の比率が違うのも、顔の大きさが違うのも、悔しいけど分かってしまう。
「水無瀬はこのぐらいがいいと思うけどなぁ」
と言って、御子柴は俺の頭に手を置き、わしゃわしゃと髪をかき混ぜた。俺はしかめっつらをして抵抗する。
「ちょ、やめろ」
「うん、いい。手が置きやすい」
「手すりにすんなっ」
頭を振るも、御子柴の手は全然離れない。かといってピアニストの指に乱暴を働くわけにもいかず、俺はしばらくされるがままだった。
「そだ、牛乳いる? 背ぇ伸びるかも」
ようやく満足したらしい御子柴が、俺の頭から手を離して、パック牛乳を差し出す。
今更牛乳なんか飲んでも、という諦めもあったが、なんとかこいつに一矢報いたくて、俺はパックをひったくると、ズコーっと音が出るまで飲み尽くしてやった。
「あっ、全部飲みやがったな」
「うるさいばか」
手近にあったゴミ箱に牛乳パックをぽいっと放る。
やり返したつもりだったけど、御子柴は一向に笑みを崩さない。
「伸びるといいねぇ」
「思ってないだろ。……だから、わしゃるな!」
再び俺の頭を撫で始めた御子柴に抗議する。御子柴はわははーと笑いながら、教室に着くまでずっとそうやっていたのだった。



