(昨日はあれ、よくなかったよな)
翌日。
俺は一日中落ち込んで、夕方になったので仕方なく学校に向かった。最悪なことに梅雨が始まりそうな雨空だった。自転車通学がしづらくなるけど、公共交通機関もいまいち不便だ。
落ち込んでいるのは、昨日、せっかく明るく話しかけてきてくれた望月くんに、結果がすべてだと言って、ケンカのようになってしまったこと。
俺の話を聞いた望月くんは見るからに落ち込んで、そのあとの清掃活動は、気まずい感じで必要最低限の会話で終わってしまった。彼の勢いよく生えている夏草のような笑顔が曇ってしまったのを見て、俺は深く後悔した。
望月くんの笑顔は、生き生きとしていて、なぜか惹かれる。笑っていてほしかった。
落ち込ませるようなことを言ったのは自分なのに、矛盾している。
言った内容は間違っていないと今でも思うのだけれど、初対面の人間で、どんな人かもわからないのに言い過ぎだった。望月くんは明るそうに見えて、結構繊細なやつだったのかも。
自分が傷ついているからって、誰かを傷つけてしまうのは違う。次に会うかもわからないのだから、せめて帰り際に謝っておけばよかった。
(ああ、人間と付き合うって難しい……)
「……!」
机の中に手を入れると、何かに触れた。取り出してみると、kaiからの返事だ。
正直なところを言うと、ちょっと期待していた。返事がなかったらがっかりするから、期待しすぎないようにはしていたけれど。
丁寧な字で「優人さんへ」とある。
自分で名乗ったのだから当然なのだけど、他人の手紙を開けるような後ろめたい気持ちだ。
それに、自分の名前を書いてもらえないことにもがっかりする。全部、自業自得なんだけれど。
『優人さんへ
お返事ありがとうございます! すごくうれしかったです。
それに、夢が叶いますようにって書いてくれたのも、それについて聞きたいと書いてくれたのも、とてもうれしかったです。
最近僕は、そのことについて落ち込んでいます。
正直、焦っています。早く何かしないといけないとと思う。でも、こんなところで映画監督になりたいと言っても、周りの人の反応は、なに子供の夢みたいなこと言ってんの、冗談だよねって感じなんです。
だけどさ、前の手紙にもちょっと書いたけど、ネットとか見ると普通に映画部とかある高校もあるし、高校生のコンテストとかもあるんですよね。受賞作品がインターネットに載っていて、僕と同い年の子が作った映画も見ました。時間も短いし、プロみたいとは言えないけど、でもそれでも映画として何かもう形にできているだけですごいよね。
でもそれって全然ただの始まりなんだよね。そういう子たちに勝って、その先のプロの作品に勝てなければ仕事になんかならない。
それなのに僕はまだ、最初の作品を撮ることもできていないんです。もうスマホで動画を作るんだっていいからなにか作ってみたいんだけど、友達に役者を頼んでも、笑って全然取り合ってくれない。
今はネットでの配信とかもあるけど、でも映画館でしか観られない映画もあって、舞台挨拶とかで監督と話したり、もう十代でそういう経験がある子たちに僕はどう戦っていけばいいんだろう。せめて東京の専門学校か、映画関係の勉強ができる美大とかに行きたいけど、親もそんなもんに出す金はないと言うんです。
そういうことがあるたびに、僕は世界から切り離されているという気持ちになります。世界はどんどん進んで行ってるのに、僕はその世界には入れない。
それであんなことを書いたんです。
優人さんも、僕とは違うかもしれないけど、何かとても焦っているのかな。なんだか、そんな気がしました。何かたくさん、がんばってきたんだね。
僕はまだ子供で、大人の優人さんが悩んでいることに、気軽に大丈夫だよとは言えないけれど、優人さんが大丈夫になれたらいいね。
たいしたことはできないかもしれないけど、僕にできることがあれば、なんでも言ってください。
あなたの力になりたいです。
kai』
鼻の奥がツンとした。
慌てて頬を拭う。学校なのに、涙が止まらない。
恥ずかしくなって周囲を窺ったけど、周りの生徒たちは、それぞれ自分のことに夢中になって気がつかない様子だ。
『がんばってきたんだね。』
その子供に向けたみたいなひらがなの十文字が、自分が何より、ほしかった言葉だったんだと思った。
翌日。
俺は一日中落ち込んで、夕方になったので仕方なく学校に向かった。最悪なことに梅雨が始まりそうな雨空だった。自転車通学がしづらくなるけど、公共交通機関もいまいち不便だ。
落ち込んでいるのは、昨日、せっかく明るく話しかけてきてくれた望月くんに、結果がすべてだと言って、ケンカのようになってしまったこと。
俺の話を聞いた望月くんは見るからに落ち込んで、そのあとの清掃活動は、気まずい感じで必要最低限の会話で終わってしまった。彼の勢いよく生えている夏草のような笑顔が曇ってしまったのを見て、俺は深く後悔した。
望月くんの笑顔は、生き生きとしていて、なぜか惹かれる。笑っていてほしかった。
落ち込ませるようなことを言ったのは自分なのに、矛盾している。
言った内容は間違っていないと今でも思うのだけれど、初対面の人間で、どんな人かもわからないのに言い過ぎだった。望月くんは明るそうに見えて、結構繊細なやつだったのかも。
自分が傷ついているからって、誰かを傷つけてしまうのは違う。次に会うかもわからないのだから、せめて帰り際に謝っておけばよかった。
(ああ、人間と付き合うって難しい……)
「……!」
机の中に手を入れると、何かに触れた。取り出してみると、kaiからの返事だ。
正直なところを言うと、ちょっと期待していた。返事がなかったらがっかりするから、期待しすぎないようにはしていたけれど。
丁寧な字で「優人さんへ」とある。
自分で名乗ったのだから当然なのだけど、他人の手紙を開けるような後ろめたい気持ちだ。
それに、自分の名前を書いてもらえないことにもがっかりする。全部、自業自得なんだけれど。
『優人さんへ
お返事ありがとうございます! すごくうれしかったです。
それに、夢が叶いますようにって書いてくれたのも、それについて聞きたいと書いてくれたのも、とてもうれしかったです。
最近僕は、そのことについて落ち込んでいます。
正直、焦っています。早く何かしないといけないとと思う。でも、こんなところで映画監督になりたいと言っても、周りの人の反応は、なに子供の夢みたいなこと言ってんの、冗談だよねって感じなんです。
だけどさ、前の手紙にもちょっと書いたけど、ネットとか見ると普通に映画部とかある高校もあるし、高校生のコンテストとかもあるんですよね。受賞作品がインターネットに載っていて、僕と同い年の子が作った映画も見ました。時間も短いし、プロみたいとは言えないけど、でもそれでも映画として何かもう形にできているだけですごいよね。
でもそれって全然ただの始まりなんだよね。そういう子たちに勝って、その先のプロの作品に勝てなければ仕事になんかならない。
それなのに僕はまだ、最初の作品を撮ることもできていないんです。もうスマホで動画を作るんだっていいからなにか作ってみたいんだけど、友達に役者を頼んでも、笑って全然取り合ってくれない。
今はネットでの配信とかもあるけど、でも映画館でしか観られない映画もあって、舞台挨拶とかで監督と話したり、もう十代でそういう経験がある子たちに僕はどう戦っていけばいいんだろう。せめて東京の専門学校か、映画関係の勉強ができる美大とかに行きたいけど、親もそんなもんに出す金はないと言うんです。
そういうことがあるたびに、僕は世界から切り離されているという気持ちになります。世界はどんどん進んで行ってるのに、僕はその世界には入れない。
それであんなことを書いたんです。
優人さんも、僕とは違うかもしれないけど、何かとても焦っているのかな。なんだか、そんな気がしました。何かたくさん、がんばってきたんだね。
僕はまだ子供で、大人の優人さんが悩んでいることに、気軽に大丈夫だよとは言えないけれど、優人さんが大丈夫になれたらいいね。
たいしたことはできないかもしれないけど、僕にできることがあれば、なんでも言ってください。
あなたの力になりたいです。
kai』
鼻の奥がツンとした。
慌てて頬を拭う。学校なのに、涙が止まらない。
恥ずかしくなって周囲を窺ったけど、周りの生徒たちは、それぞれ自分のことに夢中になって気がつかない様子だ。
『がんばってきたんだね。』
その子供に向けたみたいなひらがなの十文字が、自分が何より、ほしかった言葉だったんだと思った。
