水色の木造の駅舎。ぼんやりとした乳白色の灯りの下に、人影が見える。
風雨で聞こえるかわからなかったが、気持ちが抑えきれない。俺は走りながら叫んだ。
「夏海!」
俺の声が聞こえたのか、ずっと外を見ていたのか、夏海が傘もなしに駅舎内から走り出てきた。そのまま、体当たりしてくる。
「澄人のバカ!」
雨に濡れていてもわかった。泣きそうな顔。
その顔を見るとほっとして、俺も泣きそうな気持ちになった。
駆け込んできた夏海が抱きついてきて、思わず抱きしめた。少しだけ、レインコートを着ていた自分が夏海を濡らすのではないかとためらったのだけれど、夏海も水浸しだった。ここに来るまでに、すっかり濡れてしまったんだろう。
「顔見られてホッとした」
俺が言うと、雨か涙かわからない表情で、夏海が顔をくしゃくしゃにする。かわいい夏海。胸がいっぱいになりながら、俺は微笑んだ。
「よかったあ! 無事来れるかめっちゃ心配したじゃん!」
夏海の、興奮ぎみの軽い訛りが耳に心地いい。
「夏海、駅の中に入ろ。着替えも持ってきたし」
俺は抱きついてくる夏海の耳元にささやく。夏海が自分から離れてしまうのは惜しい気がしたけれど、レインコートも着ていない夏海を、風雨に晒しておくのは風邪を引かせてしまいそうで心配だった。
「ん……」
しゃくりあげながら夏海がうなずく。
新幹線の駅の隣だとは思えない、木造の小さな駅舎の中には、いくつか椅子が並んでいる。灯りは煌々とついているが、人の気配はなかった。
俺は椅子にリュックサックを乗せて開け、中からビニル袋でぐるぐる巻きにした、タオルと着替えを取り出した。
「じゃーん。なんと着替えを持ってきました!」
不安だった気持ちが一気にあふれたのか、夏海がまだしゃくりあげているので、あえてふざけた感じでそれを取り出す。
「おいで、夏海」
俺が言うと、それに応じるように、夏海が俺が広げたバスタオルに近寄ってきた。俺はそのまま水の滴る髪をごしごしと擦った。夏海はおとなしく擦られていた。
「……着替え、あるなら脱いだ方がいいよな」
だいぶ、気持ちが落ち着いてきたのか。ひととおり髪の水分が拭かれたところで、夏海が尋ねる。
「うん、そう、そうだね」
夏海はためらいなく雨で貼りついた上着とシャツを脱いで、それを絞った。
「めっちゃ水出るじゃん」
小さく笑顔になった夏海から、俺は顔を逸らした。顔を逸らさないと、その体をじっくり見てしまいそうだったからだ。
――さっき抱きしめたときにもちょっと思ったけど、細いけど、キレイに筋肉ついてるよな……。
「か、風邪引くよ。早く拭きなよ」
自分の視界を遮るように、タオルを開いて夏海に押しつけた。
「ん、」
「あの、俺のでよかったら、ハーフパンツもあるから」
「サンキュ」
夏海は微笑んで、水泳のときのようにタオルを巻きつけると、手際よく下半身も着替えた。
「澄人は? 大丈夫?」
ひととおり着替えてひとごこちついたのか、夏海がレインコートを着たままだった俺を見てきた。俺はレインコートを脱ぎながら微笑む。
「気合い入れて雨対策してきたから、ちょっと足がべちゃべちゃなくらい」
足元は最悪だ。俺は水浸しの靴と靴下を脱いだ。靴を逆さにして地面に置く。濡れると思ってレインコートの下はハーフパンツにしてきたので、足と足首を拭くと、だいぶ落ち着いた。
風雨で聞こえるかわからなかったが、気持ちが抑えきれない。俺は走りながら叫んだ。
「夏海!」
俺の声が聞こえたのか、ずっと外を見ていたのか、夏海が傘もなしに駅舎内から走り出てきた。そのまま、体当たりしてくる。
「澄人のバカ!」
雨に濡れていてもわかった。泣きそうな顔。
その顔を見るとほっとして、俺も泣きそうな気持ちになった。
駆け込んできた夏海が抱きついてきて、思わず抱きしめた。少しだけ、レインコートを着ていた自分が夏海を濡らすのではないかとためらったのだけれど、夏海も水浸しだった。ここに来るまでに、すっかり濡れてしまったんだろう。
「顔見られてホッとした」
俺が言うと、雨か涙かわからない表情で、夏海が顔をくしゃくしゃにする。かわいい夏海。胸がいっぱいになりながら、俺は微笑んだ。
「よかったあ! 無事来れるかめっちゃ心配したじゃん!」
夏海の、興奮ぎみの軽い訛りが耳に心地いい。
「夏海、駅の中に入ろ。着替えも持ってきたし」
俺は抱きついてくる夏海の耳元にささやく。夏海が自分から離れてしまうのは惜しい気がしたけれど、レインコートも着ていない夏海を、風雨に晒しておくのは風邪を引かせてしまいそうで心配だった。
「ん……」
しゃくりあげながら夏海がうなずく。
新幹線の駅の隣だとは思えない、木造の小さな駅舎の中には、いくつか椅子が並んでいる。灯りは煌々とついているが、人の気配はなかった。
俺は椅子にリュックサックを乗せて開け、中からビニル袋でぐるぐる巻きにした、タオルと着替えを取り出した。
「じゃーん。なんと着替えを持ってきました!」
不安だった気持ちが一気にあふれたのか、夏海がまだしゃくりあげているので、あえてふざけた感じでそれを取り出す。
「おいで、夏海」
俺が言うと、それに応じるように、夏海が俺が広げたバスタオルに近寄ってきた。俺はそのまま水の滴る髪をごしごしと擦った。夏海はおとなしく擦られていた。
「……着替え、あるなら脱いだ方がいいよな」
だいぶ、気持ちが落ち着いてきたのか。ひととおり髪の水分が拭かれたところで、夏海が尋ねる。
「うん、そう、そうだね」
夏海はためらいなく雨で貼りついた上着とシャツを脱いで、それを絞った。
「めっちゃ水出るじゃん」
小さく笑顔になった夏海から、俺は顔を逸らした。顔を逸らさないと、その体をじっくり見てしまいそうだったからだ。
――さっき抱きしめたときにもちょっと思ったけど、細いけど、キレイに筋肉ついてるよな……。
「か、風邪引くよ。早く拭きなよ」
自分の視界を遮るように、タオルを開いて夏海に押しつけた。
「ん、」
「あの、俺のでよかったら、ハーフパンツもあるから」
「サンキュ」
夏海は微笑んで、水泳のときのようにタオルを巻きつけると、手際よく下半身も着替えた。
「澄人は? 大丈夫?」
ひととおり着替えてひとごこちついたのか、夏海がレインコートを着たままだった俺を見てきた。俺はレインコートを脱ぎながら微笑む。
「気合い入れて雨対策してきたから、ちょっと足がべちゃべちゃなくらい」
足元は最悪だ。俺は水浸しの靴と靴下を脱いだ。靴を逆さにして地面に置く。濡れると思ってレインコートの下はハーフパンツにしてきたので、足と足首を拭くと、だいぶ落ち着いた。
