この街が孤独だと感じる人と、僕は恋がしたい

 俺が小田原駅に着いたのはもう午後になってからだったけれど、それでも待つのは俺の方だった。
 熱海から小田原までの在来線はのろのろとしか動かない様子で、駅のアナウンスはお急ぎの方に新幹線の利用を勧めている。
 東京行きの新幹線を降りて、在来線のホームに移動した。新幹線はどんどんと人を東京に運んでいくのに、夏海はいつまで経っても新幹線の駅にも着かない。
 もちろん長期戦になるのを覚悟して、食べ物もタオルもそれから図書館から借りて期限が過ぎていない本も、ビニル袋に入れて持ってきた。
 まだ東京方面は在来線も完全に電車が止まっていないので、人の出入りは激しい。俺は駅のベンチの隅に陣取っていたけれど、なんだか夏海がここに来るまでも苦労しているのが、まるで彼が今まで苦しんでいたことの象徴のような気がして、悲しくなった。
 ここまででも簡単に来られる人と、そうじゃない人がいる。
 俺はそんな夏海の、味方でいたい。
『大丈夫? 体調悪くなったりしてない?』
 俺がメッセージを送ると、暇なんだろう、すぐに返事が返ってくる。
『大丈夫。空いてて座れてるし。』
 朝より素直な文面に、夏海もだいぶ参ってきている気がして心配だ。
『待ってるから、頑張れ。』
『ありがと。連絡嬉しいけど、あまりスマホのバッテリー使いすぎると困るから、しばらく切っとくな。』
 言われて俺は反省した。たしかにバッテリーが残ってないと再会できない。自分はバッテリーを持ってきたけど、夏海は持っていないのだろう。送りすぎたかもしれない。迷惑だったかも。
 仕方なくスマホを手離して、手にした本のページをめくってみたけれど、全然頭に入らない。すぐにスマホの着信を見てしまう。
 だんだんと日が暮れてきた。雨もすっかり横殴りだ。構内アナウンスによると、下り方面は完全に運休になったらしい。だいたい雨は西から東に移動するので当然なのだけれど、これでもう、今日は家まで帰れない。
 もともと戻る気はなかったけれど、夏海は来られるだろうか。
 そのとき、スマホが光った。
『なんか最寄駅まで歩くことになったわ。電車動かないから、乗ってる人が線路に下りられるように準備してるって。』
『えっどこで下りるの? 雨すごくない? 迎えに行くよ。』
 迎えに行くと言っても、徒歩だから雨には何の効果もないのだけれど。
『なんか早川駅?までは歩けるっぽいから、大丈夫。小田原の一駅前だよな。電車再開したらそっちに行く。待ってて。行き違いになると嫌だし。』
 俺は時計を見た。午後六時半。雨風は強くなる一方だし、もうこちらに来る電車は今日中には再開しないだろう。途中で夏海たちを下ろしたのもそのせいだろうし。
 スマホで現在地から早川駅までの地図を表示させた。二・二キロ、三十分と表示される。行こうと思えば行けない距離じゃない。途中橋が見えたけれど、川は氾濫していたりするだろうか。
 どうせだったら夏海がこちらに来た方が、別の路線もあるし、店も多いからいい。でも、一日中閉じ込められて、さらに前の駅から歩いてくる夏海は、ずいぶん消耗していそうだ。
(俺が行っても、ただ朝になるまで励ますだけだけど……)
 それでも台風の中、ひとりで見知らぬ場所で朝まで過ごすよりは、ふたりの方が心強いだろう。
(早川駅まで行こう)
 俺はそんなに迷わず決意した。
 だって好きな子が困っているのに、助けに行かない選択肢なんてあるだろうか。
『夏海、俺もこっちから早川駅まで歩いて行くよ。ひとりよりふたりの方が心強いだろ。食べ物も持ってく。だから駅に着いたら、待ってて。』