翌日。俺は大雨の中、ゆううつな気分を抱えて高校に向かっていた。夏海にちゃんと話そうと決意はしたけど、どうやって切り出せばいいのか、気持ちは決まらない。
夏海は明日東京に行くから、澄人として会うのは日曜日以降だろう。望月ふとん店に行けば、家族が伝言はしてくれるだろうけど、でも時間をくれと言われたところだし、会いたくないと言われるかもしれない。
優人として会うなら、メッセージに返信すればいい。でも優人だと思って会いにきたら、俺が待っていたらショックだろう。前もってメッセージか電話でその話をした方がいいだろうか。でも顔が見えない状態で話して、反応がわからないのも怖い。
(どうしよう)
玄関で水浸しになったレインコートを払って、片手に持った。いつもの教室のドアを開けて、息が止まった。
自分の席に、夏海が、座っている。
頭の中が一瞬で凍りつく。どうすればいいのか、わからない。
「あ、日暮くん! 全日制の子が日暮くんを待ってるよ」
山村さんがドアのところで棒立ちになっている俺に声をかけてくれる。
俺の席――まあつまりは夏海の席でもあるわけだけど、そこを立って、制服姿の夏海が俺の前にやってきた。
制服……、初めて見るブレザー姿の夏海は、また幼さを感じさせてかわいい。っと、そうではなくて。
「澄人! きみが優人さんだったの?」
「え、夏海? なんで、」
決まっている。夏海は優人に会いに来たのだ。
「あの、夏海、ごめん! 俺、騙すつもりはなかったんだけど、タイミングを逃しちゃって……!」
「オレのこと、わかってくれてるって思ってたのに! 優人さんなんだったら、そりゃ当り前だら! なんで黙ってたのさ、オレ優人さんのこと、好きだと思ってたのに、澄人に告白されて、澄人のこと好きなのかなって、オレもう頭めっちゃぐちゃぐちゃだったんだから! それで、本当は自分が誰が好きなのか、優人さんに会ってハッキリさせたかったの! でも澄人は全部知ってたってどういうことよ? オレ、澄人の告白を真剣に考えたのに、澄人はそうじゃなかった? オレは澄人のこと、どこまで信じていいんだよ?」
夏海の言葉にはまた、訛りが混ざっている。目に涙がたくさんたまって、キラキラと輝いていた。そんな必死な姿にも惹かれて、胸がどうしようもなく痛む。
「ごめん! あの、ちゃんと話そう、ずっと謝ろうと思ってたんだ、でも勇気がなくて」
そのとき、始業ベルが鳴った。
「澄人のことなんか知んねえよ! 嘘つき!」
夏海はそう言うと、玄関の方に駆け出した。俺は慌てて後を追おうとした。そのとき、山村さんが心配そうに聞いてきた。
「あの、もう先生来るけど、大丈夫……?」
「あっ、えーと、そう、そうだよな!」
授業をサボって今すぐ追いかけて誤解を解きたい。いや、自分が嘘をついたのは誤解じゃないけど、でも夏海に対する気持ちは本気だっていうこと。夏海の夢を応援したいし、夏海を大切にしたいこと。
自分がどうしようもなくて傷つけてしまったけれど、もう一度チャンスがほしいこと。
「あの、さっきこの席誰か違う人の席って聞かれて、日暮くんの席って言っちゃって……まずかったかな」
困ったように尋ねる山村さんに、俺は慌てて言った。
「あ、いや、それはそうだよ。悪かったのは俺だから」
そう、全部悪いのは俺だ。嘘をついた自分。それを言えなかった自分。
「日暮さん山村さん、席についてー」
そう言いながら、教室に担任が入ってきた。
「はいみなさんこんばんはー! もうノート見るなよー、机の中にしまってー」
「あっ試験……」
俺は思わずつぶやく。すっかり忘れていた。そうだ、今日は期末試験だった!
さすがに試験をすっぽかすのはまずい。三回目の二年生にはなりたくない。それこそ自分に自信が持てなくなる。
「さっさと解いて追いかけなよ」
席についた山村さんがこそっとささやいてきた。
「うん、そうだよな、そうする」
「大丈夫だよ、あっちだって試験だってわかってるだろうし。怒ったのは、きっと日暮くんを信じたいと思ってたからじゃん。きちんと謝れば、わかってくれると思うよ」
「許してくれるかな。俺、あいつのことが好きなんだ」
山村さんはたぶん、さっきの夏海の話を聞いていただろう。別に隠すこともない気がした。
だって夏海が好きだって、そんなに恥ずかしいことじゃないだろう? 夏海は、あんなに魅力的なんだから。
「それじゃなおのこと、きちんと謝った方がいいよ」
山村さんが言う。俺はうなずいて、試験問題を受け取った。
夏海は明日東京に行くから、澄人として会うのは日曜日以降だろう。望月ふとん店に行けば、家族が伝言はしてくれるだろうけど、でも時間をくれと言われたところだし、会いたくないと言われるかもしれない。
優人として会うなら、メッセージに返信すればいい。でも優人だと思って会いにきたら、俺が待っていたらショックだろう。前もってメッセージか電話でその話をした方がいいだろうか。でも顔が見えない状態で話して、反応がわからないのも怖い。
(どうしよう)
玄関で水浸しになったレインコートを払って、片手に持った。いつもの教室のドアを開けて、息が止まった。
自分の席に、夏海が、座っている。
頭の中が一瞬で凍りつく。どうすればいいのか、わからない。
「あ、日暮くん! 全日制の子が日暮くんを待ってるよ」
山村さんがドアのところで棒立ちになっている俺に声をかけてくれる。
俺の席――まあつまりは夏海の席でもあるわけだけど、そこを立って、制服姿の夏海が俺の前にやってきた。
制服……、初めて見るブレザー姿の夏海は、また幼さを感じさせてかわいい。っと、そうではなくて。
「澄人! きみが優人さんだったの?」
「え、夏海? なんで、」
決まっている。夏海は優人に会いに来たのだ。
「あの、夏海、ごめん! 俺、騙すつもりはなかったんだけど、タイミングを逃しちゃって……!」
「オレのこと、わかってくれてるって思ってたのに! 優人さんなんだったら、そりゃ当り前だら! なんで黙ってたのさ、オレ優人さんのこと、好きだと思ってたのに、澄人に告白されて、澄人のこと好きなのかなって、オレもう頭めっちゃぐちゃぐちゃだったんだから! それで、本当は自分が誰が好きなのか、優人さんに会ってハッキリさせたかったの! でも澄人は全部知ってたってどういうことよ? オレ、澄人の告白を真剣に考えたのに、澄人はそうじゃなかった? オレは澄人のこと、どこまで信じていいんだよ?」
夏海の言葉にはまた、訛りが混ざっている。目に涙がたくさんたまって、キラキラと輝いていた。そんな必死な姿にも惹かれて、胸がどうしようもなく痛む。
「ごめん! あの、ちゃんと話そう、ずっと謝ろうと思ってたんだ、でも勇気がなくて」
そのとき、始業ベルが鳴った。
「澄人のことなんか知んねえよ! 嘘つき!」
夏海はそう言うと、玄関の方に駆け出した。俺は慌てて後を追おうとした。そのとき、山村さんが心配そうに聞いてきた。
「あの、もう先生来るけど、大丈夫……?」
「あっ、えーと、そう、そうだよな!」
授業をサボって今すぐ追いかけて誤解を解きたい。いや、自分が嘘をついたのは誤解じゃないけど、でも夏海に対する気持ちは本気だっていうこと。夏海の夢を応援したいし、夏海を大切にしたいこと。
自分がどうしようもなくて傷つけてしまったけれど、もう一度チャンスがほしいこと。
「あの、さっきこの席誰か違う人の席って聞かれて、日暮くんの席って言っちゃって……まずかったかな」
困ったように尋ねる山村さんに、俺は慌てて言った。
「あ、いや、それはそうだよ。悪かったのは俺だから」
そう、全部悪いのは俺だ。嘘をついた自分。それを言えなかった自分。
「日暮さん山村さん、席についてー」
そう言いながら、教室に担任が入ってきた。
「はいみなさんこんばんはー! もうノート見るなよー、机の中にしまってー」
「あっ試験……」
俺は思わずつぶやく。すっかり忘れていた。そうだ、今日は期末試験だった!
さすがに試験をすっぽかすのはまずい。三回目の二年生にはなりたくない。それこそ自分に自信が持てなくなる。
「さっさと解いて追いかけなよ」
席についた山村さんがこそっとささやいてきた。
「うん、そうだよな、そうする」
「大丈夫だよ、あっちだって試験だってわかってるだろうし。怒ったのは、きっと日暮くんを信じたいと思ってたからじゃん。きちんと謝れば、わかってくれると思うよ」
「許してくれるかな。俺、あいつのことが好きなんだ」
山村さんはたぶん、さっきの夏海の話を聞いていただろう。別に隠すこともない気がした。
だって夏海が好きだって、そんなに恥ずかしいことじゃないだろう? 夏海は、あんなに魅力的なんだから。
「それじゃなおのこと、きちんと謝った方がいいよ」
山村さんが言う。俺はうなずいて、試験問題を受け取った。
