花火を終えて、食事を終えて、俺たちは砂浜に座り込んで、ぼんやりと空を眺めている。暗闇の中、雲が少しは流れてきたのか、いくつか星が瞬いていた。
「あ、」
夏海が顔を逸らして、小さくくしゃみをした。
「ごめん」
俺はちらりと夏海を見る。日が落ちてずいぶん経って、半袖は寒そうだった。
「寒くなってきたね。よかったら」
羽織っていた緩いパーカーを脱ぐと、俺はそれを夏海の上半身の上にかけた。
「澄人は大丈夫?」
俺はパーカーを脱いで半袖になってしまったので、そんな俺を窺うように、横から上目遣いで夏海が見てくる。
(まあ俺だって寒くないわけじゃないけど!)
今のはちょっとカッコつけたので、気にせず受け取ってほしいところだ。
「澄人が嫌じゃなければ、もうちょっと、くっつく?」
「……え、あ、う、うん」
おずおずと夏海が肩を寄せてきた。たしかにお互いに触れているところは寒くない。事実だけ見れば、寄せられた肩を抱いたりして、カップルみたいにくっつくのが一番寒くはない。
寒くはないが。
(心臓が止まるんだけど!)
顎の下あたりに夏海のくせ毛がおさまっている。その髪を、ぐちゃぐちゃに撫でたい強い欲望に駆られた。
客観的に見たら完全にカップルみたいだ。まあ暗いし、誰かに見つかってどうこうということはないだろうけど。
嫌じゃなかった。むしろ嬉しい。だけど、がっかりもする。夏海には暖を取る目的しかないのかと思うと。
そもそも付き合ってないのにキスの提案をしてきたり、夏海はちょっと最初から他人と距離感が近すぎる。
「な、夏海。……好きな人、いる?」
「あ、好きな人。うーん、そうだな、気になってる人、は、うん、いなくもないけど……うん」
迷っているようにそうつぶやいた夏海のささやきを聞いて、俺はドキリとする。気になってるって、どれくらいなんだ?
「どういう人がタイプなの? 年上?」
「あー、まあ。そういう傾向はあるっちゃあるかなあ。でも年上なのにちょっとかわいいっていうか、頼りない人、が多いかも。なんかオレが守ってあげたいっていうか」
年上。一歳上だが同じ学年の自分はちょっと入らないだろうか。清掃活動のときに、彼に声をかけてきた男の人が思い浮かぶ。
「前さ、……初恋の人、って話してたろ。初恋は、どんな感じだった?」
「あー、友兄ちゃん?」
「あ、そうかな。このまえ会った人」
「えー?」
少し照れを含んだ軽い声を上げると、夏海は俺から目を逸らした。俺は自分で聞いたのに、夏海が照れているのがちょっと面白くない気がする。
「たいした話はねえよ。友兄ちゃんは、ずっと姉ちゃんの彼氏なんだけど。だからよくうちにも遊びに来てて。
オレが小学生だから、兄ちゃんが高校んときかな。一回泣いてんの、見たことがあるんだよね。なんか姉ちゃんとケンカしたかなんかでさ。それで、その前からもちろん兄貴みたいな感じで、高校生っつったら大人だし、好きではあったんだけど。それ見て大好き!ってなった。オレ性格悪いんかなー。かっこいい人が弱ってるのを見て、めっちゃかわいいな!って。それで、姉ちゃんの代わりにオレが幸せにしてあげるって言ったんだよね」
小学生のころの夏海を想像した。たぶん今は少し染めて茶色い感じだから、そのころはもう少し髪の色が落ち着いてて、癖毛はそのままだろうか。きっとかわいいだろう。
そんな夏海が、大好きだと思った人……。
「それで?」
「友兄ちゃんは、姉ちゃんが好きだからごめんなって。笑って。泣いてたのに笑ってくれてよかったけど、完全に子供の言うことで、かわいいなって感じだった。本気では受け止めてくれなかった。それで、そのときは子供だからだと思ったんだけど、高学年になってから、男友達がふざけて『愛してる〜』みたいなことを言い合っててさ。周りはみんな、笑うか嫌がるかで。それで、ああ、笑うか嫌がることなんだなって。
それで、それがわかってから思うと、兄ちゃんが本気にしなかったのは、オレが男だからかな、とも思った。まあ姉ちゃんがいるから、どうともなんねえけどな」
そのときのことを思い出すと、今でも傷つくのだろう。夏海は、悲しそうな、寂しそうな顔をした。
俺はまた、そういう彼を抱きしめて、自分が守ってあげたい衝動に駆られる。
(いや、自分で言ったことは守らないと!)
「そっか。教えてくれて、ありがと」
俺は自分を抑えて、かっこつけた声で、小さく感謝だけした。
「なんも面白いことねえだろ、オレの話なんて」
そんなことはなかった。夏海と恋の話を、もっとしたい。
「夏海はさ、たぶんすっごく気遣って守ってくれる、面倒見のいい彼氏になりそうだよな」
「え、なんだよ」
急に褒められたのに照れるように、夏海ははにかんで笑う。
「だって今日も、こうやって声かけてもらったし、夏海はいつも明るいし、俺はそれに助けられてるよ」
それは、俺の正直な気持ちだった。
彼がいて、ここでの生活がすごく楽しい。
「どーも」
「でも、彼氏は守ってくれる人の方がいいような感じもする」
「あ、」
夏海が顔を逸らして、小さくくしゃみをした。
「ごめん」
俺はちらりと夏海を見る。日が落ちてずいぶん経って、半袖は寒そうだった。
「寒くなってきたね。よかったら」
羽織っていた緩いパーカーを脱ぐと、俺はそれを夏海の上半身の上にかけた。
「澄人は大丈夫?」
俺はパーカーを脱いで半袖になってしまったので、そんな俺を窺うように、横から上目遣いで夏海が見てくる。
(まあ俺だって寒くないわけじゃないけど!)
今のはちょっとカッコつけたので、気にせず受け取ってほしいところだ。
「澄人が嫌じゃなければ、もうちょっと、くっつく?」
「……え、あ、う、うん」
おずおずと夏海が肩を寄せてきた。たしかにお互いに触れているところは寒くない。事実だけ見れば、寄せられた肩を抱いたりして、カップルみたいにくっつくのが一番寒くはない。
寒くはないが。
(心臓が止まるんだけど!)
顎の下あたりに夏海のくせ毛がおさまっている。その髪を、ぐちゃぐちゃに撫でたい強い欲望に駆られた。
客観的に見たら完全にカップルみたいだ。まあ暗いし、誰かに見つかってどうこうということはないだろうけど。
嫌じゃなかった。むしろ嬉しい。だけど、がっかりもする。夏海には暖を取る目的しかないのかと思うと。
そもそも付き合ってないのにキスの提案をしてきたり、夏海はちょっと最初から他人と距離感が近すぎる。
「な、夏海。……好きな人、いる?」
「あ、好きな人。うーん、そうだな、気になってる人、は、うん、いなくもないけど……うん」
迷っているようにそうつぶやいた夏海のささやきを聞いて、俺はドキリとする。気になってるって、どれくらいなんだ?
「どういう人がタイプなの? 年上?」
「あー、まあ。そういう傾向はあるっちゃあるかなあ。でも年上なのにちょっとかわいいっていうか、頼りない人、が多いかも。なんかオレが守ってあげたいっていうか」
年上。一歳上だが同じ学年の自分はちょっと入らないだろうか。清掃活動のときに、彼に声をかけてきた男の人が思い浮かぶ。
「前さ、……初恋の人、って話してたろ。初恋は、どんな感じだった?」
「あー、友兄ちゃん?」
「あ、そうかな。このまえ会った人」
「えー?」
少し照れを含んだ軽い声を上げると、夏海は俺から目を逸らした。俺は自分で聞いたのに、夏海が照れているのがちょっと面白くない気がする。
「たいした話はねえよ。友兄ちゃんは、ずっと姉ちゃんの彼氏なんだけど。だからよくうちにも遊びに来てて。
オレが小学生だから、兄ちゃんが高校んときかな。一回泣いてんの、見たことがあるんだよね。なんか姉ちゃんとケンカしたかなんかでさ。それで、その前からもちろん兄貴みたいな感じで、高校生っつったら大人だし、好きではあったんだけど。それ見て大好き!ってなった。オレ性格悪いんかなー。かっこいい人が弱ってるのを見て、めっちゃかわいいな!って。それで、姉ちゃんの代わりにオレが幸せにしてあげるって言ったんだよね」
小学生のころの夏海を想像した。たぶん今は少し染めて茶色い感じだから、そのころはもう少し髪の色が落ち着いてて、癖毛はそのままだろうか。きっとかわいいだろう。
そんな夏海が、大好きだと思った人……。
「それで?」
「友兄ちゃんは、姉ちゃんが好きだからごめんなって。笑って。泣いてたのに笑ってくれてよかったけど、完全に子供の言うことで、かわいいなって感じだった。本気では受け止めてくれなかった。それで、そのときは子供だからだと思ったんだけど、高学年になってから、男友達がふざけて『愛してる〜』みたいなことを言い合っててさ。周りはみんな、笑うか嫌がるかで。それで、ああ、笑うか嫌がることなんだなって。
それで、それがわかってから思うと、兄ちゃんが本気にしなかったのは、オレが男だからかな、とも思った。まあ姉ちゃんがいるから、どうともなんねえけどな」
そのときのことを思い出すと、今でも傷つくのだろう。夏海は、悲しそうな、寂しそうな顔をした。
俺はまた、そういう彼を抱きしめて、自分が守ってあげたい衝動に駆られる。
(いや、自分で言ったことは守らないと!)
「そっか。教えてくれて、ありがと」
俺は自分を抑えて、かっこつけた声で、小さく感謝だけした。
「なんも面白いことねえだろ、オレの話なんて」
そんなことはなかった。夏海と恋の話を、もっとしたい。
「夏海はさ、たぶんすっごく気遣って守ってくれる、面倒見のいい彼氏になりそうだよな」
「え、なんだよ」
急に褒められたのに照れるように、夏海ははにかんで笑う。
「だって今日も、こうやって声かけてもらったし、夏海はいつも明るいし、俺はそれに助けられてるよ」
それは、俺の正直な気持ちだった。
彼がいて、ここでの生活がすごく楽しい。
「どーも」
「でも、彼氏は守ってくれる人の方がいいような感じもする」
