カキーン…

テレビから聞こえたその音は、いつまでも耳に残りそうだった。
舞いあがった白球は、青空に吸い込まれるように消えていった。

「お兄ちゃん、これが甲子園?」

「ああ、そうだ。俺も行きたかったんだ、甲子園」

「ふーん……すっごく、かっこいいじゃん」

そのとき、私は――
野球に恋をした。

中学三年の夏。
その夏、南聖を破り、甲子園で快進撃を続けた藤青学園高校が、私の志望校になった。

__あの日、私が出会った君は、何かを失っていました。