部室に置きっぱなしだった、ピンクのダンスシューズ。
 インソールをぐいっと引き抜いて、私は衝動的にハサミを入れた。

 ザクッ。ザクッ。
 金属のこすれる音と、右手への鈍い振動。
 土踏まずのあたりにちょっと切りこみを入れるだけ。
 それでもたぶん、踊り始めれば勝手にジワジワ裂けてくる。

 足裏の違和感は、ダンサーにとって致命的だ。
 きっとステップが遅れる、気になって感覚が狂う。
 そしたら私があの子に負けることなんて絶対にありえない。


「あ~あ、りりあ先輩。ヤバくないすか? それ」

 嘲笑をふくんだ低い声で、私はハッと我に返った。
 振り返るとドアのところに、背の高い男。
 手に持ったスマホをこっちに向けて、画面を見ながらニヤッと笑う。

 動画を撮られてる……?

 その瞬間から『完璧なりりあ』は、この世界からいなくなったんだ。