鳴海くんが喧嘩やタバコを吸っていた理由は、お父さんに見てもらいたかったから、なのかな…。

幼い頃から孤独の中で生きてきたからこそ、間違っている方法を使ってでも大切な人の瞳にうつりたかったんだ…。


「わかるな…」

「…は?」

「鳴海くんは私のことを“いい子ちゃん”って言ったよね。もうずっと昔からこうなの。うちの両親はね、昔から私にたくさんの習い事を強制してきた。将来優秀で人から頼りにしてもらえるような、そんな“いい人”に育って欲しいからって理由でね。結果を出した時だけ二人は私を褒めて、見てくれる。だから私は、全ての感情を殺してでも“いい子”でいないといけなかった。怒りや悲しみ、嫉妬なんていう醜い感情はいい子には必要ないから。二人は“私”なんてどうでもいいと思ってるの。周りからの賞賛や羨望のために、私を利用しているだけ。今更変えたいと思ったところで、私はいい子ちゃんから抜け出せないんだよ」


だからとっくに諦めた。

私のなりたい本当の私は、この世界中で誰も求めていないから。

作られた道の上で、作られた自分でこれからもずっと死ぬまで生きていくんだ。この汚い世界の中で。


「だからちょっとだけ、鳴海くんのことが羨ましかった。鳴海慎は自分勝手の問題児だってみんなは言うけど、思ったままに行動ができる鳴海くんが羨ましくて眩しかった。私はここから抜け出す方法なんてわからないから。ヘラヘラ笑って周りの欲しい言葉を吐いて、怒ることも泣くこともどうやってすればいいのかもう忘れちゃった。鳴海くんはこんな私を綺麗だなんて思う…?」


鳴海くんはすっと歩き出すと、ドーム型になっている遊具の中に入り込み私を手招きしてきた。


「…なに?」

「ここ、掘ってみろ」